今回は、組織資産・人的資産・顧客資産という「見えない資産」が会社の危機を救った実例を見ていきます。※本連載では、株式会社バリュークリエイト代表取締役・三冨正博氏の著書『「見えない資産」経営 企業価値と利益の源泉』(東方通信社)から一部を抜粋し、組織資産や人的資産、顧客資産といった「見えない」資産の創り方を見ていきます。

人材を雇う資金がない…起業家が取った「行動」とは?

前回の続きです。

 

もがけばもがくほどジリ貧になっていくことに気づいた起業家はどうしたか。「情熱だけで事業をはじめたのだから、この情熱にかけてみよう」と原点に戻ったのである。

 

彼らが抱いていた情熱は「すべての企業の価値創造に貢献したい」ということである。その情熱は誰にも負けない自信があった。なかったのはお金と実績だけである。情熱にお金を払ってくれる人はいないけれど、自分たちの情熱を人に伝えることはできると考えた。5つの資産でいうと、もっとも金融資産から遠いと思われる人的資産に着目したのである。

 

この時点で、起業家に人材を雇う資金はない。そこで彼らはどうしたかというと、自分たちの考えに共感してくれる仲間(サポーター)を探すところからはじめた。とにかく、知り合いにかたっぱしから会い、自分たちの持っている情熱を熱く語った。すると、情熱を語り続けていくことによって、情熱がさらに強化されていくことに彼らは気づいた。実績も歴史もなかった会社に、組織資産が少しずつ醸成されていったのである。

 

それと同時に、語り続けていくことによって最初はとりとめもなかった漠然とした想いが、次第に形を成しはじめていった。何度も何度も繰り返し情熱を語るうち、起業家の熱弁にも力がこもり、説得力が増していく。語り続けることによって製品・サービスの内容が磨かれていったのである。つまり、物的資産が少しずつ積み上げられていったわけだ。

 

そうして、情熱を語ることをはじめてからしばらくたった頃、相変わらず情熱を語る活動をしていると、ある知り合いがひとりの経営者を紹介してくれた。「あなたたちの考えていることと近いことをいっている人がいるから、一度会ってみるとよい」と勧めてくれたのである。

 

さっそく連絡をとり、紹介された経営者に会うと、起業家は何度も繰り返し語った情熱を経営者にぶつけた。すると、経営者は起業家の考え方に共鳴し、「ぜひうちの会社にアドバイスしてほしい」と願い出た。顧客資産に初めて具体的な会社名が入った瞬間だった。

資産がゼロになり、会社は潰れたかのように見えたが…

情熱を語り続けることで初めて契約が取れた起業家は、より積極的に情熱を語る活動を続けていった。すると、次第に仕事が増えていった。

 

ほどなく、倒産の危機をなんとか免れると、少しずつ実績も積み上がり、さらに仕事が舞い込むようになっていき、やがて起業家は安定的な収益構造をつくり上げることに成功した。

 

もうお気づきかもしれないが、この起業家とはバリュークリエイトを創業した私たち自身のことである。また、経営者を紹介してくれた「ある知り合い」が、本書の「はじめに」を書いてくれた藤野英人氏である。

 

いま私たちは、当たり前のように「見えない資産を高めることで企業価値は創造される」といっているが、それは、たんに概念上の話ではなく、実体験をもとにしたリアルな現実から導き出された答えである。

 

起業して3カ月、情熱だけで事業をスタートしたものの十分な仕事はない。仕方なく、とにかくお金になる仕事を求めたものの、簡単に仕事がとれるはずもなく、ジリ貧になった。あと2カ月もすれば倒産という危機に直面したとき、私たちは自分たちのやるべきことにやっと気づいた。

 

5つの資産をもとに、経営のアドバイスをしていこうとして起業したのだから、その通りに自社でやってみるべきだと考えたのである。以後、私たちは、金融資産や物的資産ではなく、見えない資産である組織資産、人的資産、顧客資産に注目して事業を成功させようと考えた。

 

そのときの将来キャッシュ・フロー表がある。

 

[図表] バリュークリエイトの2001年9月末時点の将来キャッシュフロー図

 

代表取締役2名で起業し、その給料が合わせて毎月300万円かかる。多少の売上はあったものの、知人のつてでなんとか請け負った仕事なので、損益分岐点を確保するほどの利益は得られない。事務所の運営費を維持することもままならず、足りない分は、2人で用意した資本金を取り崩していった。その結果、2001年9月末に第1期を締めた時点で預金残高は400万円ほどになり、2カ月後の11月にふたりの給料を払ったら資金が底をつくところだった。

 

その後、私たちはやり方を変え、自分たちの熱い想いである「見えない資産」に注目することにした。徐々に顧客はつきはじめていたが、すぐにキャッシュ・フローは好転しない。実際にお金が入ってくるのは、サービスを提供した月末になるからだ。

 

2001年11月時点のキャッシュ・フロー表を見ると、相変わらず低空飛行を続けており、2カ月後には預金がゼロになる状況に変わりはなかった。

 

そうして迎えた2002年1月25日。バリュークリエイトにとって忘れられない記念日である。この日、創業者である私たちふたりに給料を払ったところで、貸借対照表の株主資本がいよいよゼロとなったのである。

 

見える資産がゼロになり、外部から見ると会社は潰れたように見えただろう。ところが、私たちは何も心配していなかった。財務諸表だけ見ていれば、すっからかんである。けれど、見えないところで私たちの会社は数カ月前とはまったく違っていた。

 

2カ月前の11月時点と違うのは、見えない資産である人的資産と顧客資産の数である。この頃、私たちは情熱を語り続けることで、私たちの考え方に共感し、応援してくれるサポーターができ、さらにサポーターを介して顧客にリーチするラインができる、という状態にあったので、お金(金融資産)が確実にこれから入ってきて貯まっていくことがわかっていたのである。ふたりの情熱(組織資産)はより増しており、私たちの想いに共感して応援してくれるサポーター(人的資産)は増え、私たちの想いに共感して我々のサービスを受けてくれる顧客(顧客資産)は増えていたのだ。

 

見える資産である株主資本がゼロになっていても、見えない資産である組織資産(ワクワク)、人的資産(イキイキ)、顧客資産(ニコニコ)が金融資産をもたらしてくれることがわかり、これからキャッシュ・フローが増えていくことがわかっていれば、人間は心の底から安心していられることを身をもって経験することができた。何より見えない資産の価値を高めることで、企業価値は高まるということを、みずからの体験で学ぶことができたのは、私たちにとってきわめて大きな財産(ナレッジ)となった。

本連載は、2017年5月13日刊行の書籍『「見えない資産」経営 企業価値と利益の源泉』(東方通信社)から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「見えない資産」経営―企業価値と利益の源泉

「見えない資産」経営―企業価値と利益の源泉

三富 正博

東方通信社

企業価値というと、金融資産や物的資産といった「見える資産」ばかりが注目されがちだが、著者はそのほかにも組織資産や人的資産、顧客資産といった「見えない資産」があることを強調し、それこそが企業価値と利益の源泉である…

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