継続的な努力が「成果に結びつかない」のはなぜか?
見える資産と見えない資産というフレームワークを持ち出すまでもなく、どこの企業でも、顧客に提供する価値を最大化しようと努力しているし、そのための人材育成や品質の向上をはかっているに違いない。人的なリソースや顧客からの支持、あるいは組織の底に流れる文化を資産として捉え、価値が低下しないように維持・管理しなければならない、ということに異存のある経営者は存在しないだろう。
ところが、多くの企業が5つの資産を高めるために日々努力しているにもかかわらず、その成果がかならずしも出ているわけではないという現実がある。
営業部門は一生懸命に日々の営業活動にまい進しているが、なかなか思ったように成績は伸びない。製造部門は一生懸命に日々の生産活動や品質向上に努力しているが、市場の要求する水準になかなか追いつけない。そうした矛盾、あるいは軋轢を日々抱えながら、一部の経営者や従業員の頑張りと才能に頼ってなんとか成果を上げているのが多くの企業の現状だろう。
なぜ、継続的な努力が成果に結びつかないのだろうか。
その答えは、5つの資産を連動させることで見えてくる。
そもそも5つの資産はそれぞれが独立してアウトプットを出しているわけではなく、かならず連動している。
金融資産の最大の原資は、当然ながら顧客が支払ってくれる対価である。売上こそが金融資産を増やす最大の原資だ。ゆえに、金融資産を増やすためには顧客資産を強化しなければならず、金融資産と顧客資産は密接に連動している。顧客資産は、顧客が購入する製品・サービスの対価としてお金を支払うことによって形づくられていく。よって、製品・サービスが顧客にとって魅力的でなければ顧客資産は増えない。ゆえに、顧客資産を増やすためには物的資産を強化しなければならず、顧客資産と物的資産は密接に連動している。
物的資産は、製品・サービスあるいはそれを生み出すための設備、機械、店舗などからなっているが、それらはすべて、それを生み出すための従業員のやる気、技術、あるいは、サプライヤーやサポーターの協力を必要とする。ゆえに、物的資産を高めるためには人的資産を強化しなければならず、物的資産と人的資産は密接に連動している。
そして、人的資産は、トップのリーダーシップ、会社が打ち出す戦略、企業や製品・サービスの持つブランド力、業務をサポートするあらゆるシステムによって、その力を初めて存分に発揮できる。ゆえに、人的資産を増やすためには、組織資産を強化しなければならず、人的資産と組織資産は密接に連動している。
あらためて順を追って見ると、組織資産がベースとなって人的資産が力を発揮し、人的資産が物的資産を使ってよりよい製品・サービスを生み出し、物的資産によって生み出された製品・サービスによって顧客資産が形づくられ、顧客資産が支払う対価によって金融資産が積み上げられることがわかる。そうしてつくられた金融資産を組織資産や人的資産に再投資することによって、価値創造の基盤がより盤石になるという方程式が成り立つのだ。
物的資産と顧客資産を入れ替えて起きた変化
この循環をわかりやすく示したのが「価値創造のプロセス」である。
[図表] 価値創造のプロセス
バリューダイナミクスで示された5つの資産をもとに、顧客資産と物的資産の位置を入れ替えてみたものだが、たったそれだけのことで、見える世界が違ってくるのがわかるだろうか。
組織資産を中心に、人的資産→物的資産→顧客資産→金融資産と展開し、組織資産に戻るというように、ぐるぐると左回転して各々の資産が連動していく様子がよくイメージできるはずだ。
実はこの概念図は、顧客との対話のなかで生み出されていった。それは、私たちがバリュークリエイトを立ち上げたばかりの頃で、まだ経営分析ツールを持ち合わせておらず、あるものといえば、アーサーアンダーセンが開発したバリューダイナミクスしかない状態だった。
そのときもいつものように、バリューダイナミクスをもとに5つの資産によってどのように企業価値を高めていくのかについて議論していた。すると「この物的資産と顧客資産を入れ替えてみたらよりわかりやすいのではないか」という提案が顧客企業から出てきた。
いわれてみればたしかにそうで、物的資産と顧客資産の位置を入れ替えただけで、それまで5つの資産が個別に大きくなっていき、結果として全体が大きくなるように見えた5象限にまるで命が宿ったかのように、ぐるぐると左回りに回転しはじめる様がはっきりと見えたのだ。この経験がきっかけになって、概念のフレームワークにすぎなかったバリューダイナミクスから、経営に応用できる具体的なツールが生み出されていくことになった。
そこで私たちはこのツールを「価値創造のプロセス」と名づけたのである。
組織資産を中心に、人的資産、物的資産、顧客資産へと想いが伝わり結果として金融資産が増え、それがさらに再投資されることを通じて、より力強く、少しずつ年輪のように大きくなっていくと企業価値は大きくなっていることを意味する。逆に、この流れが分断され、あるいは流れが緩やかになってきて、輪が小さくなっていくと企業価値は小さくなっていることを意味する。
ちなみに、この顧客企業の経営者とは東京・青山に本社のある青山フラワーマーケットというブランドを展開しているパーク・コーポレーション社長の井上英明氏である。井上氏と当時対話した内容は、パーク・コーポレーションのホームページ(www.park-corp.jp/blog/intro-01/)で日本語のみではあるが公開されているので、こちらも参照してほしい。