中国企業減税の要とされ、営業税を増値税に移行させる改革「営改増」。2012年から段階的に実施され、昨年にほぼ移行が完了したが、残された課題も多い。本連載では、この「営改増」の実態と中国経済への影響について考察する。

供給側構造改革の柱の1つに

中国では営業税を増値税に移行させる改革「営改増」が、1994年の抜本税制改革以降で最も重要な税制面での動きと位置付けられている。2012年から段階的に実施されてきたが、昨年ほぼ移行が完了した。

 

本年3月全人代で李克強首相が行った政府工作(活動)報告では、昨年の主要成果のひとつである、経済成長を「合理区間」に維持した(つまり、成長率実績が6.7%となり、6.5%〜7%という目標を達成した)こととの関係で、営改増の全面実施が企業の税負担軽減を通じ、供給側構造改革に繋がったことが強調された。税制改革の面で、世界に対して「中国様本(モデル)」を提供したとまで、中国当局が自負しているものだ(6月15日付人民日報。同記事は財政部ウェブサイトにも掲載された)。しかし、残された課題は多い。

 

営改増が進められた直接的背景は次の2点だ。

 

①増値税はモノ、営業税はサービスにかかる流通税だが、増値税が付加価値をベースにして仕入れ税額控除が行われるのに対し、営業税はグロスの売上に課税されるため、一般に税負担が重く、税の不公平が指摘されてきたこと。

 

②企業の営業形態が複雑化するに伴い、増値税、営業税両方の課税対象となり2重課税される企業が増加していたこと。

 

営改増が打ち出された後、供給側構造改革が習近平政権の経済政策を表すキーワードの1つとなった。営業税の課税対象であるサービス産業が税制面で不利な扱いを受けていると認識され、また例えば、製造企業が研究開発部門を独立・強化しようとした場合に、2重課税がネックになるといった問題が生じていた。営改増は結果的に、サービス産業の発達、企業の研究開発を促進する効果が期待され、産業構造の変革・高度化に資する点から、供給側構造改革の具体施策の1つとしても位置付けられるようになった。

建設、不動産、金融、生活サービスへの移行も完了

営改増が最初に政府文書に現れたのは第12次5か年計画(2011〜15年)で、まず上海が試験地として指定され、12年1月から「1+6」、つまり、交通運輸業と6つの現代サービス産業(研究開発、情報技術、文化、物流サービス等)が対象とされた。その後同年8月、北京、天津、深圳、広東、江蘇等8つの省市が先行試験地に追加され、13年8月、実施範囲が全国に拡大された。対象業種も14年初〜中旬、3業種が追加され「3+7」、つまり、交通運輸、郵政事業、電信と7つの現代サービス業となった。

 

この時点で残った建設、不動産、金融、生活サービスの4業種について、16年5月、ようやく増値税への移行が完了した。「3+7」対象企業が約500万社、営業税収シェアで20%であったのに対し、4業種は1千万社以上、税収80%を占める。4業種は営改増で税率自体は高くなるため(例えば金融は営業税5%→増値税6%)、実質増税になるのではないかとの業界の懸念もあり、中国内で「最難齧(かじる)骨頭」、つまり最も移行が困難と呼ばれてきた業種だ。

 

当局は抵抗する業界に対し、営改増の大原則は「只減不増」、つまり税負担軽減で増税にはならないとして説得し、営改増のプロセスが一応終了した。なお、一部地域で試験的に実施した後、全国実施に移していく手法は、改革開放以来、大きなまたは困難が予想される改革を行う場合、中国が一般的に採用してきたもので、必ずしも営改増が特別というわけではない。

 

 

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