前回は、「廃業の告知」はどのタイミングで行うべきかを説明しました。今回は、廃業の告知を行う際、特に配慮をすべき点について見ていきます。

取引先にもっとも大きな影響を与える「未払金の返済」

前回の続きです。今回は、廃業の告知を行う際、特に配慮をすべき点について見ていきます。

 

未払金に関する交渉

 

取引先にもっとも大きな影響を与えるのが買掛債務などの未払金の返済です。資産超過状態での廃業であれば清算も可能ですが、負債超過の場合は廃業時に完済できないため返済方法についての交渉が必要です。

 

経済的な余力がない取引先であれば未払金の影響で破産も考えられるため、廃業した経営者からの返済について不安や不信感が大きければ感情的になることもあるはずです。

 

一方、廃業する経営者側は経済的な困窮が予想されるので、交渉では債権の縮小や返済スケジュールの変更を求めることになります。双方の要望には大きな隔たりがあり、妥協できる返済方法を見つけるのは簡単ではありません。

 

事業用地の売却によって数か月以内に返済資金が手元に入る計画があるなら、そのことを前提に交渉を進めると、スムーズな話し合いができます。

 

●売掛債権の回収交渉

 

売掛債権をきちんと回収できれば未払い債務を返済する原資となります。全額回収を目指すべきですが、廃業により迷惑をかける部分があるなら返済を求める金額や返済方法などを交渉によって決め、書面に残すのが現実的な対処方法です。

 

回収が難しい債権については弁護士などの専門家を立てるのも有効です。また、金額や債務者の状況によっては債権を第三者に売却する債権譲渡を検討するのも良いでしょう。回収できる金額は小さくなりますが、現金がスムーズに手に入るため、不動産売却に要する資金が不足しているケースなどでは役立つ選択肢の一つです。

銀行との交渉では、完済を保証する証拠を積み上げる

●抵当権を抹消しない銀行との交渉

 

金融機関の担当者によっては抵当権の抹消に応じない人がいます。抵当権がついている不動産を売却することはできないので、売却計画はその時点で頓挫してしまいます。

 

担当者や支店には、返済されると融資残高のノルマが達成しにくくなるという事情があるため、抵当権抹消を申し込まれたタイミングにおける成績次第で対応が変わるのです。

 

「抵当権を外したからといって完済されるかどうかわからない」などの理由をつけてきますが、借手の事情より担当者や支店の事情を優先したいというのが金融機関側の本音です。

 

これを解消するためには、完済を保証する証拠を積み上げるしかありません。それでも金融機関側が拒否してくるなら、上位機関に指導を求めるという手段もあります。

 

客観的に「返済が確実」と思える状況下で抵当権の抹消を拒むのは問題行為にあたるため、金融機関の本社や場合によっては地域の財務局に連絡をとり、適切な指導を仰ぐことも視野に入れて話を進めるべきです。担当者や支店も上位機関に事情を知られると不都合なので、売主が「本社や財務局に連絡をとる」という姿勢を見せると対応が変わることは珍しくありません。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年8月16日刊行の書籍『経営者のための事業用不動産「超高値」売却術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

大澤 義幸

幻冬舎メディアコンサルティング

事業が悪化し経営苦に陥った中小企業経営者の切り札「不動産売却」。できるだけ高値で売却して多額の負債を返済したいと考えながらも、実際は買手の〝言い値″で手放せざるを得ないケースが多い。しかし、売れないと思っていた…

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