行政との交渉には、経験豊富な弁護士を伴って臨む
不動産を加工して売却する際には、行政との折衝が必要になることが少なくありません。たとえば、大きな土地を宅地として造成する場合、自治体によっては道路や公園の整備などが必須と定めているところがあります。造成した土地はその後買手が開発計画を実施して商品化されます。自治体が定めた工事を売手がやるべきか買手がやるべきかはグレーゾーンですが、行政側が売手に負担を求めてくるケースがあるのです。エリアによっては造成に伴って大がかりな調整池の付設を求められることもあります。
行政が求める工事を行うと巨額の費用が発生するため、売却益は一気に縮小します。法制上避けようがないこともありますが、交渉によって回避できることもあります。その際、行政と適切に話し合うために必要とされるのは、やはり法律の知識です。行政裁判をしても時間がかかるばかりなので、不動産に詳しい弁護士を伴って担当者と面談し、妥当な判断を求めます。
同じ法曹の資格を持っていても弁護士は人によってそれぞれ能力や得意分野が違います。中でも不動産関連の実務はかなり特殊なので、経験豊富な弁護士を選任することが交渉の成否に大きく影響します。
造成工事を行う土地の近隣住民とは必ず交渉を
開発造成して売却する場合には、近隣住民の同意を得て警察に許可申請を行う必要があります。造成工事が行われる土地の近隣住民にとって工事は迷惑なものです。大型の工事車両が生活道路を通行するため子供や老人に危険が及ぶ他、ほこりが舞ったり騒音がしたりとさまざまな害が及びます。そのため、事前に工事の詳細を説明して地域住民から同意を得ることが条件づけられているのです。
私が経験したケースでは、造成工事に市道が使えなかったため地域内のやや狭い道路を工事車両の進入路として利用しなければならないことがありました。通常は粗品を持参して地域を回り同意を得るのですが、このケースでは地元自治会で説明会を行ったところ通行について難色を示す声があがりました。
工事をする立場としては進入路の確保は必須です。歩み寄りを図る中で自治会から「工事をするのであれば、同時に近隣の石積みを直してくれないか」「一部地域では浄化槽を利用しており不便なので下水道を通してほしい」などの要望が出てきました。
地域住民の中に交渉に長けた人がいると、しばしばこういった現実的な解決策を示してくることがあります。地域の困り事を解消してくれるなら工事の迷惑には目をつぶるという取引です。石積みも下水道も土地の造成にはまったく関係のない工事ですが、土木事業者にとってはそれほど難しくない「付帯工事」と考えることもできます。
「迷惑が大きいので道路の使用は絶対に認められない」など、交渉の余地がない考えを示されると対応するのが困難です。石積みや下水道の工事は費用的にもあらかじめ想定していた「近隣対策費」の中におさまる要望であったため、私の会社ではすぐに交渉に応じ、要望に沿う形で工事を行いました。
同様のケースでは、他にも「ため池の柵が危険なので直してほしい」「消防団への協力をお願いしたい」など、さまざまな要望に出合ったことがあります。売却価格の大きさを考えれば、工事がストップするデメリットの方がはるかに大きいため、近隣の道路を利用させてもらう「利用料」と考えて柔軟に応じるのが基本的には得策です。
ただ、その際には後でもめないよう、工事についての同意を必ず書面で残してもらうようにします。
反社会勢力からの干渉は、弁護士に対応を一任
不動産売却の現場では思わぬ形でいわゆる暴力団などの反社会勢力が介入してくることがあります。近年は規制につながる法整備が進んできたため表立って関わるケースは少なくなっていますが、造成工事に対する迷惑料や参入の要求など、さまざまな形で介入してくるケースを私自身も経験しています。
対策としては弁護士に一任するのがもっとも賢明です。交渉の専門家として「危機コンサルタント」などを名乗る機関や個人が存在しますが、玉石混淆であり、中には反社会勢力と裏でつながっているケースも見られるため注意が必要です。