損害額 - 過失相殺 - 既払金 = 被害者の手に渡る金額
12級と14級の違いがどれほどのものか? 等級自体はそれほどの差でないように感じるかもしれないが、実際には補償に大きな隔たりがある。だからこそ私たちは必死になって12級を勝ち取ろうとするのである。ちなみに頸椎捻挫、いわゆるムチ打ち症それ自体ではまず100%、11級以上に認定されることはないことを知っておいてほしい。
さて、そこで12級と14級で補償額がどのように変わってくるのかを試算してみたいが、その前に損害額としてどのようなものがあるのかをもう一度おさらいしてみよう。まず損害額だが、以下に主要なものを挙げた(他に通院交通費や入院雑費などもある)。
(A)損害額
治療費 治療にかかった費用
傷害慰謝料 傷害を負ったことによって入通院したことに対しての慰謝料
休業損害 交通事故による負傷や治療などで仕事ができなかったりして、収入が減った実損分の補償
以上が症状固定されるまでの補償の内訳となる。症状固定され後遺障害の認定が下りると、さらに以下の補償がなされる。
後遺障害慰謝料 後遺障害に対しての慰謝料
後遺障害逸失利益 後遺障害によって十分に働くことができなくなったために生じる損害
以上が損害額の全体である。ただし以上で算出された損害額をそのままもらえるとは限らない。ここから引かれるのが、
(B)過失相殺 過失の割合に応じて補償の額を負担すること
(C)既払金 治療費や休業損害などは後遺障害による補償が行われる前にすでに保険会社が支払っているケースが多く、その分の金額を減額すること
の2つである。つまり最終的に補償として被害者の手に渡る金額は、A ‒ B ‒ Cということになる。この計算をまず頭に入れておいてほしい。
わずか2級の差で補償額に600万円以上の差も…
さて、この計算にしたがって12級と14級の補償額を計算してみよう。ここで、わかりやすい事例として以下のケースを想定してみる。被害者が優先道路を走行していたところ、わき道から加害車両が飛び出してきた。被害者は40歳男性、傷病名は頸椎捻挫、通院日数は約6カ月間、年収は600万円、過失割合は9対1とする。
このような場合に、裁判所基準では12級と14級でどれほど損害額が違ってくるのだろうか。ちなみに等級によって変わるのは基本的に後遺障害に対する補償で、症状固定前の治療費や傷害慰謝料、休業損害は原則的に同じ(厳密にいうと等級によって傷害慰謝料や休業損害の算定に影響が及ぶ場合もあるが、ここでは同額とする)。このケースの場合は治療費30万円、傷害慰謝料89万円、休業損害50万円(このケースの場合は休業日数1カ月分)とした。
問題は、後遺障害に対する補償がどれくらい変わってくるかである。次ページでは、12級と14級のそれぞれの場合の補償額を計算した(図表1、2)。これを見てわかるように、このケースでは14級で322万9830円が支払われることになる。一方、これが12級となると補償額は951万8832円となる。したがって、このケースでは12級と14級では実に600万円以上の差が出ることがわかる。
[図表1]後遺障害等級14級9号の場合
[図表2]後遺障害等級12級13号の場合
わずか2級の差でこれだけの違いが出ることに驚かれた方もいるのではないだろうか? それゆえに私たちは依頼を受け12級認定を得るべく全力を尽くすのであるが、先ほども述べたように頸椎捻挫などムチ打ち症に関してはまずよほどのことがない限り14級止まり。下手をすると等級外。12級となると認定はなかなか下りないのだ。交通事故補償の仕事をしていつも感じるのは、この14級と12級の間に横たわっている高くて厚い壁である。
その壁とは具体的にどんなものなのか、次回さらに探っていこう。