前回は、「損害保険料率算出機構」の成り立ちと問題点を取り上げました。今回は、後遺障害の認定において、その7割が12級と14級になる理由などを見ていきます。

圧倒的に多いのは等級の低い12級から14級の認定

それでは実際に等級認定がどう行われているのかを見ていこう。ちなみにこの等級自体は労災の基準をそのまま当てはめたものだ。労災の基準を交通事故補償の基準にすること自体の矛盾や問題点は筆者著書『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』の第4章にて詳しく述べている。また、その基準が巻末に掲載している等級表である。

 

一目瞭然なのだが、1級ともなると、もはや日常生活もままならない状況であることがわかる。6級、7級の段階でも大きなハンデを背負わされ、事故前と同じ仕事が続けられるかどうか危ぶまれる状態である。このような重篤な後遺障害を負ってしまう人ももちろん少なくないのだが、圧倒的に数が多いのは等級の低い段階、12級から14級というケースなのである。

 

図表1は平成20年度(2008年度)の後遺障害の各等級別の構成比である。これを見ると12級と14級の数字が突出しているのがおわかりだろう。

 

[図表1]後遺障害等級別構成比(平成20年度)

(注)1. 平成14 年3 月31 日以前に発生した事故で現行の別表第一に相当するものは、別表第二の第1 級・
第2 級として集計している。
   2. ( )内は平成19 年度の構成比。損害保険料率算出機構「 自動車保険の概況 平成21年度」より
(注)1. 平成14 年3 月31 日以前に発生した事故で現行の別表第一に相当するものは、別表第二の第1 級・ 第2 級として集計している。
2. ( )内は平成19 年度の構成比。
損害保険料率算出機構「 自動車保険の概況 平成21年度」より
 

認定が非常に難しいムチ打ちなどの「神経症状」

交通事故の後遺障害の等級認定にあたって、最も難しいことはどういうところか? 実は等級の高い重度の障害に関してはそれほど問題はないのである。というのも重篤な症状であるがゆえに、その障害の存在、事故との関連性が比較的わかりやすく、医学的にも証明しやすいからだ。問題の多くはむしろ等級の低い12級から14級に集中している。

 

ムチ打ちを含む局部の神経症状がこの12級と14級に当たるのだが、この神経症状の認定が非常に難しく、多くの解決すべき問題を抱えているからである。そして図表1でも見たように、その数もダントツで多いのである。つまり最も認定数の多い等級に最も深刻で解決するべき問題が潜んでいるわけだ。

 

骨折したり、じん帯を損傷して局部に神経症状が残った場合、あるいはいわゆるムチ打ち症と呼ばれる頸椎捻挫や腰椎捻挫などを総称して、「局部の神経症状」と呼ぶとすると、「局部の神経症状」は巻末の等級表では12級「局部に頑固な神経症状を残すもの」、14級「局部に神経症状を残すもの」に分類される。

 

そこで一番多いケースである頸椎捻挫、いわゆるムチ打ち症について考えると、12級の可能性もありそうだが、よほどのことがない限り14級止まりの認定しか下らない。首が回らなかったり、絶えず頭痛に悩まされたり、誰が見ても明らかに日常生活に多大な支障が出ているにもかかわらず、12級ではなく14級という認定がほとんど、最悪は後遺障害に当たらない非該当という認定さえ珍しくはない。

 

12級と14級の基準の違いは、「頑固」であるかないかということであるが、ではここでいう「頑固な」とはどういうことなのか、どのような症状をもって頑固な神経症状といえるのかということになる。

 

図表1で明らかなように、後遺障害の認定を受ける7割が12級と14級のいずれかである。そして図表2に示したように後遺障害のほぼ半数が「精神・神経症状」(46·3%)なのである。実際、交通事故に関する多くの相談を受ける中で、私たち事務所の仕事の多くがムチ打ち症などの神経症状の12級と14級の認定の攻防ということになるのだが、その認定の問題点を明らかにする前に、まず12級と14級で実際にどれだけ補償額が違ってくるかを明らかにしよう。

 

次回に続きます。

 

[図表2]後遺障害系列別構成比(平成20年度)

(注) 「併合・相当」とは、後遺障害等級を2つ以上有する場合、1つの等級に格付けしたもの。
そのため、個々の系列には区分できない。損害保険料率算出機構「 自動車保険の概況 平成21年度」より
(注) 「併合・相当」とは、後遺障害等級を2つ以上有する場合、1つの等級に格付けしたもの。 そのため、個々の系列には区分できない。損害保険料率算出機構「 自動車保険の概況 平成21年度」より

 

[図表3]後遺障害等級別件数構成比(平成25 年度)

(注)1. 平成14 年3 月31 日以前に発生した事故で現行の別表第一に相当するものは、別表第二の第1 級・
第2 級として集計している。
   2. ( )内は平成24 年度の構成比。損害保険料率機構「自動車保険の概況 平成26年度」より
(注)1. 平成14 年3 月31 日以前に発生した事故で現行の別表第一に相当するものは、別表第二の第1 級・ 第2 級として集計している。
2. ( )内は平成24 年度の構成比。
損害保険料率機構「自動車保険の概況 平成26年度」より

 

[図表4]後遺障害系列別件数構成比(平成25 年度)

(注) 「併合・相当」とは、後遺障害等級を2 つ以上有する場合に1 つの等級に認定したもの(併合)、または、
各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって各等級の後遺障害を準用して認定したもの(相当)。
そのため、個々の系列には区分できない。損害保険料率機構「自動車保険の概況 平成26年度」より
(注)「併合・相当」とは、後遺障害等級を2 つ以上有する場合に1 つの等級に認定したもの(併合)、または、 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって各等級の後遺障害を準用して認定したもの(相当)。 そのため、個々の系列には区分できない。
損害保険料率機構「自動車保険の概況 平成26年度」より

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

現代に生きる私たちは交通事故にいつ巻き込まれるかわからない。実際日本では1年間に100万人近くの人が被害者であれ加害者であれ交通事故の当事者になっている。そのような身近な問題であるにもかかわらず、我が国の交通事故補…

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