「カネを借りてくれいうたんはおたくやないか!」
前回の続きです。
ところが厄介な問題がある。業績不振企業の経営者ほど聞く耳を持っていないのだ。それだけでなく、自身の置かれたポジションを理解せず、業績不振の責任を周りに転嫁して自身の失敗を省みない。
たとえば、金融機関に対する態度がその最たる例だろう。金融円滑化法以降、地域金融機関は地元企業との協調路線を強めているが、通常、業績が傾いた企業に対する融資が絞られる傾向にあるのは致し方がない。経営がうまくいっていない企業にお金を貸して返ってこなければ、今度は銀行の経営が悪化してしまう。銀行は債権を保全するために貸し出す先を見極めざるを得ない。冷静に考えると当たり前だが、銀行を目の敵にして強気の姿勢に出る経営者が後を絶たないのも事実である。
あるバンクミーティングに出席した時のこと。会議の俎上(そじょう)に載せられている不振企業の経営者が、声を荒げて債権者である銀行にたて突き始めた。
「そもそもカネを借りてくれいうたんはおたくやないか!」
「せやのに、うちの経営が苦しくなったら手のひらを返すとはどういうことや!」
この経営者の様子を見て、社長が意識と態度を改めない限りこの会社を再生させるのは難しいと判断せざるを得なかった。
負け戦を演じた経営者は債権者に厳しく追及されるが・・・
バンクミーティングとは、経営不振に陥った企業の再生支援手段を模索する目的で、取引先金融機関が一堂に会して話し合う会議を指す。そのバンクミーティングに出席する経営者は、厳しくいえば戦いに敗れ、支援者の協力がなければ当事者単独での脱出は図れない、いわば敗軍の将である。
負け戦を演じた経営者は、経営不振に陥った原因を債権者から厳しく追及される。
まるで被告人席に座り、丸裸にされるようなものだ。経営者は借りたお金が返せなくなっているわけだから、本来は債権者に対して誠心誠意の態度を示さなければならない。その協力的な姿勢と強烈な自己反省があるからこそ、債権者たちはその企業を本気で再生させようと協調路線を歩むようになる。
昔はこの時、衷心(ちゅうしん)より自身の失敗を反省する経営者がほとんどだった。しかし最近は正反対。自身の過ちを省みることなく、債権者に喰ってかかる経営者があまりにも多い。なぜそうなってしまったのか。書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』第1章でも触れたように、残念ながら国家が甘やかし過ぎたことも一因と私は考えている。金融円滑化法以降、条件変更をほぼ無条件で認める〝温情政策〞が、世の中小企業経営者を勘違いさせてしまったのである。