前回は、企業経営の最優先課題は「利益」と言い切れる理由を解説しました。今回は、需要縮小による倒産の危機の中で、生き残る方法を見ていきます。

供給に対する需要が7割程度にまで落ち込むと・・・

ある業界で需要と供給のバランスが狂い、まとまった数の企業が倒産する現象を私は「やじろべえ現象」と名づけている。

 

たとえば京都は呉服の本場として知られ、かつては室町通りに呉服問屋が軒を並べて繁盛していた。着物市場は高度経済成長期に最盛期を迎え、京友禅の生産量はピーク時の1971年に約1650万反の出荷を記録。しかしその後、着物離れが進み、2010年には約51万反まで落ち込んだ。ピーク時から40年後、生産量が僅か3%になってしまった。もちろん、ある日突然、風船の口が開いたようにマーケットが一瞬で縮んでしまったわけではない。ずっと放置された風船のようにじわじわと、しかし確実に、市場が小さくなっていったわけである。

 

仮に最盛期に呉服屋が1000軒あったとしよう。需要が1000で供給が1000、釣り合いが取れているので業界は大繁盛だ。その後、成熟期を迎えたマーケットは、1000の供給に対して需要がじわじわと減少を始める時期が訪れる。

 

最初のうちは「景気、悪いでんなあ」と世間話をする程度だが、1000の供給に対して需要が100や200も減ってくると、同業者は次第に我慢比べに入っていく。そして需要が7割程度まで落ち込んだその瞬間、300ほどのまとまった数の呉服屋がドサリと一気に倒産するのだ。まるでやじろべえに一定の傾斜がついた途端、倒れて落下するように……。

 

この、やじろべえが落下に至る「一定の傾斜」は重心の位置によって異なる。重心が高いものはわずかな傾斜にも耐えられず、重心が低いものは大きな傾斜でもうまくバランスを取って立ち続けることができるのだ。

 

そして、商売もやじろべえと同じである。地面に踏ん張って市場の縮小に抵抗し、知恵を絞って基本に忠実に商売を続けている企業は、多少の環境変化ではへこたれない。だが、需要が減るのは時代の流れでやむを得ないと諦め、商売の基礎をないがしろにした企業は、足腰が弱ってしまい市場の動乱で簡単に倒れてしまう。そうしてまとまった数の企業が倒産する時期が、供給に対する需要が7割程度にまで減ったタイミングなのだ。

重心を低くして倒れにくい企業を作り上げる

こうして縮小するマーケットでも供給サイドの数が減ると、需給バランスが例示の場合でも700対700で一時釣り合う。その後、需要がまた7割まで減少し、3割の供給サイドが市場から退場……というプロセスを繰り返した結果、京都の着物の生産量は最盛期の僅か3%になってしまった。

 

同業が廃業し、生き残った企業の経営者はどうしたか。他社が潰れたことで一時は溢れた仕事を取り込んで売上を確保した。生き残った企業同士で縮小するパイを奪い合ったのである。倒産した他社の仕事を獲得したその瞬間だけを見れば、「まだ生き残れる」と安堵するかもしれない。しかし市場が縮小していく恐怖は、まるで火の車が猛烈な勢いで迫ってくるようなものである。安堵したのも束の間、再び需要は落ち込み、市場は時流に変化なくまた供給過剰に陥っていく。次に倒れるのは、前の淘汰時に潰れた企業の仕事を取り込んで生き残っていた企業かもしれない。

 

一方、長年の商売で蓄積してきた経験やノウハウ、あるいは京都の伝統品という〝クールジャパン戦略〞を駆使して新たな市場開拓、次なる事業の柱を構築するための対策を取り続けた企業は市場縮小という劣勢をはねのけて成長している。最近では京都の着物メーカーの若手経営者が結集しNPO法人を立ち上げ、国内はもとより海外市場に打って出ている。需要の縮小に抗って挑戦している好例といえるだろう。

 

マーケットが縮小するなか、地に足のついた攻めの事業投資をせず、なんの経営戦略も打たない受け身の企業は、限られたパイを奪い合う消耗戦を繰り広げるしかない。

 

その消耗戦はいずれ終わりを迎え、先に体力が尽きた企業が敗れ去ることになる。

 

こうした消極的な企業運営は経営とはいわない。まるで業界全体で集団死滅に向かって進んでいく悲劇の行進だ。もっと長期的な目線で経営を俯瞰し、着物メーカーの若手経営者たちのように売上を向上させるための方策を練り、適切な投資をし続ける必要がある。それこそが足腰を鍛え、重心を低くして倒れにくい企業にするための要諦である。

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    本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    石原 豊

    幻冬舎メディアコンサルティング

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