経営改善の「打ち手」を欠いていては社長失格
書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』第1章の冒頭では中小企業が置かれている厳しい外部環境について触れたが、コントロールできない外部環境のせいにして企業トップが経営改善の打ち手を欠いていては社長業失格だ。経営者(=企業家)は「企て」を続けるのが最大の仕事なのだから、それを諦めているのだとしたら、職務放棄と批判されても仕方がない。
経営者の能力や資質を判定する基準は人によって異なると思うが、私は「利益」こそが唯一無二の尺度だと考えている。かつて公害問題が喧しい時代、売上と利益をどんどん上げるのは社会的罪悪のように叫ばれた時代があった。現在においても「企業経営の目的は他にあって、利益はそれを達成するための手段にすぎない」と忠告する人がいるだろう。利益が第一目的になると、何をやっても稼げればいいという猪突猛進型の思考に陥るリスクがあるからである。
その主張は正しい。しかし、利益がなければ企業は継続できないばかりか、従業員の生活を保障することも、大切な地域貢献を行うことなども夢の話だ。それだけでなく、自分自身の生活の維持・発展もできず、本来の義務である納税に依る国家への奉仕もできない。企業は社会的存在なのだから、従業員も自分も守れないようでは社会的使命を果たしていないことになりはしないだろうか。つまり企業という利益集団は、「利益を上げられなければなんの存在価値もない」のだ。
その利益の有無は誰のせいでもない、経営者自身の知恵と努力の結晶である。経営者がすべての対策をやり尽くして、なお利益が出ないということは絶対にない。経営者は、利益を経営の最優先課題にすべきである。
すでに濡れ雑巾がカラカラになるまで絞り切っていると思っても、これまで努力してきた取り組み以外に見落としている対策が必ずあるはずだ。それを見つけ出して実行する、そのプロセスから赤字企業の体質改善は始まるのである。
売上なければ利益なし、利益なければ企業なし
体質改善の視点は極論すれば二つしかない。資金の「入」と「出」である。「入」の売上が伸びないなら、まず「出」の経費を抑えるのが経営の定石だろう。貴重な利益の無駄食いをしない、引き締まった体質を作るのである。
「種まき(=企て)」の具体策は書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』の「鉄則⑨」を参照していただくとして、ここでは「企業継続の条件」となる一つの指標を紹介する。
売上高×利幅(売上高総利益率)=総利益額総利益額=総経費×1.05
たとえば月次売上1000万円の企業をこの指標に当てはめると、次のようになる。
売上1000万円×売上高総利益率30%=総利益額300万円
総経費285万円×1.05%(当期利益15万円)≒300万円
月当たり売上1000万円で総利益率30%を得るためには、総経費は285万円(利息込み)がこの場合の限界、採算ラインギリギリということである。総経費がもう15万円増えると当期利益は喪失し、それ以上に経費が膨らむと赤字に転落する。
この指標は企業の存在価値、継続の原点を表している。売れない時代といわれる現在で、この指標は経営者に重くのしかかるだろうが、企業存続に不可欠な経営の原点なので参考にしてほしい。
この原点を死守できない場合、企業は赤字に転落し、社会から不要との烙印が押されて存立の基盤を失う。黒字に返り咲き社会的使命を果たさない限り、企業は市場からの退場を余儀なくされる。まさに非情の世界である。
売上なければ利益なし。利益なければ企業なし―この経営哲学を肝に銘じ、売上、利益、経費の正常化に邁進していただきたい。