今回は、為替レートに大きな影響を及ぼす「資本取引」の概要を見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

少しでも高い収益を求め、国家間を移動する巨額マネー

以前は、為替レートを決めるのは貿易収支の動きだといわれていました。しかし、現在では、貿易収支より資本取引の影響のほうがはるかに大きくなっています。これは1998年に外国為替法が改正されて資本取引が自由化され、誰でも外貨預金をしたり、外国の金融商品を売買したりできるようになったからです。

 

2013年のデータでいいますと、年間の世界の総貿易額は19兆ドルで、1日に換算すると約520億ドル(1日約6兆円)でした。これに対して、資本取引による売買額は、1日平均約5兆ドル(= 600兆円)という巨額なものとなっています。実に貿易額の約100倍の資本取引が世界で行なわれているのです。

 

なぜ、これほど巨額の資本取引が行なわれるのでしょうか。最大の理由は国家間に金利差があり、大量の資金が少しでも高い収益を求めて国家間を移動するからです。たとえば、アメリカの金利が上昇し、日本の金融商品(国債、社債、株式など)よりアメリカの金融商品のほうが有利になったとします。そうなると、日本で資金を運用していた投資家は、円をドルに換えてアメリカの金融商品を購入するようになります。その結果、ドルが買われてドル高・円安になります(図表)。反対に、日本の金利がアメリカより高くなれば、ドル安・円高が起きます。

 

[図表]アメリカの金利上昇によってドル高・円安になる

市場のかく乱の要因ともいわれる「ヘッジァンド」

同様に、日本が大規模な金融緩和を行なえば、大量に印刷されたお金はより高い収益を求めて金利の高い国に流れ込みます。その過程で、円が売られて外国通貨が買われ、円安が進行します。2012年から2015年にかけての円安は、主として日本の大規模な金融緩和政策によると考えられます。

 

一方、近年、国際的な資金移動で注目を集めているのがヘッジファンドです。ヘッジファンドとは民間の投資家から資金を集めて運用する投資集団です。世界のファンド数は数千にものぼり、残高は200兆円を超えるともいわれています。しかし、私募債であるため正確な統計がなく実態は不明です。ヘッジファンドはしばしば市場をかく乱する要因の一つになるといわれています。

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

意味がわかる経済学

南 英世

ベレ出版

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