毎月売上目標を設定し、適正な利益率を算出
前回の続きです。
ここでA店がまず取るべき対策は数字の見直しです。売上と粗利益額の達成率に大きな差があるのは、実は売上目標の設定に問題があるためなのです。A店では店長が「経験に基づく勘」を頼りに各月の売上目標を決めていたため、パチンコを取り巻く環境が急変する中、現実との差が徐々に大きくなっていることに店長が気付いていませんでした。
粗利率は売上目標の達成を前提に設定されます。たとえば売上目標8000万円で1000万円の利益を上げたければ、粗利率を12.5%に設定する必要があります。ところが、実際の売上が6000万円しかなければ、粗利額は750万円にとどまります。
A店の粗利益額の目標達成率が低かったのは、もともとの売上目標額が実際の売上とは大きく異なっていたことが原因でした。
そこで私が指導したのは「前年同月の売上及び先月、先々月の売上データをもとに毎月の売上目標を定める」という方式への切り替えです。その結果、現実的な売上目標を出せるようになりました。ちなみに、売上目標をもとに粗利益額目標を達成できる利益率を算出したところ、これまで設定してきた利益率ではまったく足りないことが判明しました。「もっと取るべき」というアドバイスをすると、ほとんどの店長は不安を示し、時には反発します。「利益を取らなければいけないことはわかってはいるが、そんなことをすると遊技客が離れるのでできない」と考えているためです。
この矛盾を解消するカギはデータにあります。データの見方を変えるだけで、店舗を営業する上で絶対に必要とされる利益率がわかります。この利益率は、達成しなければ赤字になり営業が行き詰まってしまうので否応なく設定せざるを得ません。利益率を把握し、設定することでホールの収支は好転していくのです。
A店の場合も、「この利益率は必達」と店長が理解したことで粗利益額の達成率が徐々に高まり、3か月後には粗利目標108%という達成率を実現できました。お金をかけず、人手を増やすこともなく営業を立て直すことができたのです。
基礎から計数管理を学び、根拠のある計画数値を導く
A店の計画が甘かったのは、主に「計画数値に根拠がない」「遊技機を結果論で使っている」という2つの問題によります。
計画数値に根拠がないのは綿密な計数管理ができていないためです。計数に関する知識と意識が足りないため、現実的な計画数値が出せていないのです。また、遊技機を結果論で使っているのも、同じく計数管理を適当に考えているためです。目標を達成できるよう計画をしっかり作るという発想がなく、「出た結果に慌てて対応する」という営業姿勢が身に付いてしまっていたため、要であるはずの計数が大きくぶれていたのです。
計数管理を身に付けるためには、最低限、次に挙げる用語や計算式を把握しなければいけません。ホールコンピュータが弾き出す数字を眺めるだけでなく、数字の意味することを理解できれば、だんだんと計数管理の感覚が身に付いてきます。
【最低限理解しておきたい計数項目】
アウト:遊技客が打った玉数
セーフ:遊技客に払い出した玉数
差玉:アウトとセーフの差
S値:1分間あたりの回転数
出玉率:アウトに対するセーフの割合
ベース:特賞時を除く通常時のみの出玉率
割数:売上に対する賞品の割合
玉単価:アウト1玉あたりの売上単価
玉粗利:アウト1玉あたりの粗利益額
自分で能動的に数字を作れるようになるには、一つひとつの計算が電卓でできるようになるまで勉強を重ねる必要があります。たとえば利益の計算をすれば、その周辺の関係する項目をまとめて導き出すことができます。
図表は28個交換(11・2割分岐)のホールで粗利益と玉単価、玉粗利を求める計算式ですが、こういった計算が自分で自然にできるようになれば、経験と照らし合わせてより論理的な営業ができるようになります。
計数管理に強くなるために資金は要りません。店長の頑張り次第で大手ホールに追いつくことができる数少ない分野です。
また、計数管理はパチンコホール営業の要です。「いつ、どれだけ出し、どれだけ取るか」というさじ加減で稼働が変わり、取れる利益額が変わります。月ごと、週ごと、日ごとに目標と計画が決められるため、店長に計画どおりの売上と利益を求められますが、その基本になるのは遊技機の管理、すなわち「計数管理」です。
[図表]利益率の計算式