賞品提供高の増減分析の基準となる「S値」
前回の続きです。
A店では「売上」と「利益」のデータの捉え方を理解し直し、早急な原因究明と対策の打ち出しを行いました。
パチンコホールにとって売上はすなわち貸玉料金です。利益(粗利益)には賞品提供高の増減が関わってきますが、これを分析するための基準になる便利な数値があります。「スタート値(S値)」です。
S値をきちんと理解できれば利益率を決めることができるようになります。逆に言えば、営業戦略として設定したい利益率があるなら、S値がいくらであればその利益率になるのかを弾き出すことも可能です。
多くのベテラン店長は経験に基づく「勘」を持っているので、S値についてもそれをもとに判断しがちです。実際、A店の店長も長くそのやり方で問題がなかったため、S値の意味を理論的に理解することなく営業を続けてきたのです。
S値は利益率と「出玉の期待感」に直結する数字だけに、A店でも理解の見直しが行われました。S値についてはすでに理解している人も多いと思いますが、ここで、あらためて説明します。
「大当たりまでに要する時間」のコントロールが可能に
大当たりとS値の関係は「平均すると何分ごとに当たるか」という事柄とつながります。
ここで三洋物産「CRスーパー海物語 IN 沖縄4(以下、沖縄4)」を例に考えてみましょう。この機種のスペックは図表のとおりです。
[図表]CRスーパー海物語 IN 沖縄4
TSが319.6ですから、平均的には319.6回に1回大当たりすることになります。
たとえばS値が5.40回なら1分間に5.40回回るので、大当たりするまでに要する時間は次の計算で求められます。
319.6÷5.40≒59.19分
つまり沖縄4では、S値が5.40回なら打ち始めから大当たりまでには約59分かかることがわかります。では、ここでS値を5.60回にするとどうなるでしょうか。計算式は先ほどと同様です。
319.6÷5.60≒57.07分
大当たりまでに要する時間はおおよそ2分短縮されて約57分となりました。このように、S値を変動させることで「大当たりまでに要する時間」をコントロールできるのです。
通常、S値を0.20回程度変化させても遊技客は気づかないものです。いわゆる1000円スタート(1000円で何回転するか)が5.40で18.39回、5.60で19.28回と1回転分も差がないからです。しかし、この0.20回の回転数の違いはホールにとっては大きな利益の変動となります。この「どのくらい変動するか」はシミュレーションによって求めることができます。
シミュレーションの条件は次のとおりです。
客滞率:170%
BA(確変ベース):100%
T1Y:メーカー公表値(1420個)
BY(他出玉):5.0個
分岐割数:112.0%
アウト数:2万個
S値5.40の時の台粗利は3190円(利益率12.3%)ですが、S値を5.60にすると1283円(5.1%)となります。なんと1907円も減少となるのです。このようにS値が0.20違っても遊技客の大半は気付かないものですが、ホールの利益額は大幅に変化するのです。