「管理職ならちゃんと責任持ってくれよ」
「昔に比べて、仕事、減ったよな」
「そうですよね、三浦(みうら)さん。昔は残業ばっかりしてた気がします」
昼休み。工場脇の日陰になっている場所で、男数人が弁当を食べながら雑談をしていた。
「残業が減った分、給料はだいぶ下がりましたよ。いいときなんか、十万円近くも残業代もらっていましたから」「俺なんて、残業多すぎるからって、管理職にさせられちまったからな。俺、課長になって二年経つけど、そもそも管理職って柄じゃねーの。何を管理すればいいのかわからねーし。ヒラに戻してくれっつーの。まっ、あのワンマン社長には、怖くてなんにも言えねーんだけどさ」
昼休みが終わった工場内では、ベテランの営業担当と製造課長である三浦とが言い合っていた。
「三浦課長!日野機装(ひのきそう)さんの納品、明日だよ。研磨終わってないみたいだけど、大丈夫なんか?」
「急な注文が入っちゃって。やれるだけのことはやりますから、急かさんといてください」
「おいおい、そんないい加減な管理があるか!管理職ならちゃんと責任持ってくれよ」
「日野機装の単価、客から言われたままに下げすぎじゃないっすか?営業がもっと踏ん張らないと採算割れだよ」
「おいおい、採算割れかどうかなんて工場の生産性の問題だろう!どう効率化して利益を出すのかを考えるのは現場の責任だろう!」
「うるさいな。こっちは忙しいんだ。いいから向こうに行ってくれ」
「なにっ!黙って聞いてりゃ……」
「そんなことは現場が気にすることではない」
そこまでヒートアップしたところで、製造部長の青島(あおしま)が、砂込め作業の手を止めて二人の間に入った。
「わかったわかった。とりあえず日野機装さんの納期はきちんと間に合わせよう。なっ三浦。で、儲かっているかどうかは、後で営業にも入ってもらって整理しよう」
そうは言ったものの、青島は途方にくれた。青島が大鉄鋳造に入社したのは十年前だ。下請け工場に勤めているとき、作業の管理能力と技術力が正二の目に留まって引き抜かれたのである。それ以来、社長から目をかけられ、四十代半ばにして工場長に次ぐ製造部長の立場となり、五年が経過した。
なんとか業務を回せているとは感じているが、正直なところ会社がよくなっているとは思っていなかった。社長に会社の損益を教えてくれと頼んだときも、「そんなことは現場が気にすることではない」と軽くかわされた。一度は食い下がったものの「利益を管理するのは社長の仕事だ。お前はいい仕事をすればよい」とのことだった。
それでも、仕事の量が明らかに減少する中、材料費の高騰、変わらない従業員数や給与といった事実から察するに、大鉄鋳造の決算書を見たことのない青島にでも、会社の利益が数年前に比べて減少していることは容易に想像がついた。
先ほどまで三浦と言い合いをしていたベテランの営業担当が、作業場から出ていったかと思ったら、再び小走りでこちらに駆け寄ってくる。青島が「もう揉め事はゴメンだな」と思いかけたところで、予期せぬことが告げられた。
「社長が客先で倒れて、救急車で運ばれたって!」
「えっ!」
(続)