前回は、 「倒産」の定義について説明しました。今回は、 倒産の定義の中の「法的倒産」について見ていきます。

倒産形態の約8割を占める「破産」

前回の続きです。

 

残りの3〜6のケースは、裁判所に申請して、法的手続きによって債務整理を行うもので、一般に法的倒産と呼ばれています。法律の種類によって4種類に分かれています。それぞれ、簡単に説明しましょう。

 

会社更生……スポンサーを見つけて、事業を継続しながら再建を図るものです。主に大企業が採る手段であり、日本航空、𠮷野家、武富士などが適用を申請しました。会社更生法を申請すると、基本的に経営陣は会社を去ることになりますが、経営破綻に責任のない役員などは会社に残ることができます。

 

・民事再生……債権者の同意のもとに、債務者が主体となって再建を図るものです。経営者が続投できるのが特徴です。主に中小企業が採る手段であり、スカイマーク、そごう、東ハトなどが適用を申請しました。再建期間は3年間ですが、4社に1社くらいはその期間中に再建を果たせずに、そのまま破産に移行するようです。

 

・破産…………倒産の中で一番多いパターンで、倒産形態の約8割を占めると言われています。破産とは、破産法に基づき、残っている財産を清算して、債権者に分配して会社を畳むものです。「破産」手続きをすると、それ以上の債権の支払い義務がなくなります。また事業を行っていない個人でも、債務が多く支払い不能であれば「破産」を申請することができます。

 

・特別清算……特別清算は、破産よりも簡単な会社の清算方法です。会社法に基づき、残っている財産を清算して、債権者に公平に分配して会社を畳むものです。親会社が子会社を倒産させる場合に、課税上の利益を得るために行われる場合が多いようです。破産より手続きが簡単ですが、その代わりに債権者の協力や合意が必要になります。

最も注意すべきは「黒字に見せかけている」会社

ちなみに、法的倒産の場合、債権者全員が債権をすべて回収することはできません。法律によって、倒産した企業の債務のほとんどが免除されてしまうからです。

 

簡単に言えば、倒産した企業は、その時点で支払えるだけ支払えばよいわけです。ですから取引先企業に法的倒産されてしまうと、合法的に借金を踏み倒されることになってしまいます。倒産件数に占める法的倒産の割合は、1998年には16.1%でしたが、2015年には過去最高の88.1%になりました。この数字だけを見ると、法的倒産が増えているようですが、実際のところ一番増えているのは、倒産ではないかたちでの休廃業です。

 

東京商工リサーチによれば、2015年の倒産件数は8812件でしたが、休廃業件数は2万6699件もありました。これらの休廃業は、メディア報道などでは、「実質的な倒産」も多く含まれているとして問題視されています。少子高齢化により、社長の年齢が上がっていることから、休廃業の中には後継者が見つからないなどの理由で事業をやめることも含まれているはずですが、夜逃げなども結構あるようです。

 

同じく東京商工リサーチの「2015年度倒産企業の財務データ分析調査」によれば、倒産企業の自己資本比率を見ると、債務超過の企業が53・9%あるそうです。それだけを見ると、倒産企業の半分以上が債務超過で倒産しているように思えますが、「倒産」企業数と実質的な倒産と見なされている「休廃業」件数を合計すると、2015年に事業を停止した企業数は3万5511件になります。

 

倒産企業の数より、債務超過ではない休廃業の企業数のほうが3倍余りあるのですから、債務超過で事業停止した企業は6分の1しかないことがわかります。

 

一般に、「債務超過=かなり危険」というイメージがあるかと思いますが、債務超過になる前に事業を停止する企業のほうが圧倒的に多いのです。いくつかの金融機関で聞いた話なのですが、「赤字で債務超過の会社のほうがデフォルト(債務不履行)率が低い」と言っている方もいます。そして、「債務超過で赤字のほうがデフォルト率が低いのは、決算書の粉飾をする会社があるからだ。赤字で債務超過であることを隠さずに決算書を出す会社なのだから、ある意味その会社は信用できる」と言っていました。

 

本当に注意しなければならないのは、債務超過になっていない、もしくはなっていないように見せかけている黒字企業なのです。

本連載は、2016年10月12日刊行の書籍『取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意

取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意

田中 威明

幻冬舎メディアコンサルティング

分業化、グローバル化が進んでいる現代にあって、自社のみで事業を営むことはできません。取引先の経営状況を正確に把握することは、これからの時代を勝ち残るために必要不可欠です。 しかし、教科書的な決算書分析の手法で、…

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