今回は、子供に意思を伝える場合、遺言書と贈与の活用、どちらが適切かを見ていきます。※本連載では、株式会社日本中央研修会・代表取締役で、公認会計士/税理士/行政書士としても活躍する青木寿幸氏の著書、『あなたの相続、もめないのはどっち!?』(秀和システム)より一部を抜粋し、もめない相続のために、親として「やっておきたいこと」を説明します。

<父親が気持ちを伝えたいなら>

A:ふつうに、遺言書を作る

B:生前に、贈与しておく

どっちが正解?

相続発生の時期は誰にも分からないが…

父親が亡くなる時期は、本人も含めて、誰にも決めることができません。ただ、相続が発生すれば、その時点での財産をもとに評価されて、相続税が計算されてしまうのです。

 

たまたま経済状況がよくて、所有していたアパートの土地の評価が高ければ、比例して相続税も上がってしまいます。土地の評価は、ずっと右肩上がりでも、右肩下がりでもなく、数年の間に乱高下するのです。

 

それを相続した子供が、1年後に安い価格で売却したとしても、それは無視されてしまいます。

 

現実に、家族の遺産分割の協議が数年かかり、かつアパートの管理もほっとかれたこともあり、かなり評価が下がってしまった事例もあります。結果、相続はできたものの、相続税を支払うために、そのアパートを売却して借金を返済すると、相続人の手元には、ほとんど残りませんでした。

 

一方、贈与ならば、そのような心配はありません。その日時は、贈与する人(贈与者)と贈与される人(受贈者)の2人で決めることができるので、損をしない時期を見計らって実行すればよいのです。このとき、「贈与する日はどのように決まるのか?」と聞く方もいますが、原則、2人が合意して、贈与契約書に署名と押印をした日になります。

 

例外として、贈与するときに許可が必要となる農地や「20歳になったら贈与する」という条件がついていると、それらが満たされた日となります。

 

あとは、アパートの名義を変更する手続きが必要ですが、贈与契約書を法務局に持って行き、申請するだけなので時間はかかりません。贈与された子供は、土地の評価が下がりそうならば、売却してもよいですし、保有していれば、賃料を受け取り続けることができます。

 

別に、贈与するのは、アパートにかぎられず、何でもよいのです。子供が自宅としてマンションを買うときに、親が頭金のお金を贈与すれば、住宅ローンを減らすことができ、支払うべき利息を削ることができます。

 

上場株式を贈与すれば、子供は自由に売却できるだけではなく、保有していれば、配当金を受け取れます。会員権を贈与すれば、子供がその権利を使うこともできるのです。お金も、上場株式も、会員権も、贈与する手続きは簡単です。

 

[図表]相続よりも、生前の贈与を勧める理由

父親の意思がはっきりと子供に伝わるのは「生前贈与」

さらに、贈与には、これ以上のメリットがあります。それは、相続のときに、兄弟でもめることが減り、かつ親に対する感謝の気持ちを再確認できることです。

 

父親が遺言書を作っていなければ、兄弟でその気持ちを想像することになりますが、それが違うと、喧嘩になるのです。遺言書があったとしても、意思を正確に伝えることには限界があり、兄弟に不満が残ることもあります。贈与であれば、生前に父親が、子供に意思をはっきり伝えるため、疑問はわきませんし、もしあったとしても、聞けます。

 

贈与とは、生前に実行しておく、間違いのない遺言なのです。財産を贈与してもらった子供の生活は、早い時期から豊かになるので、父親に対する感謝の気持ちは、今まで以上に大きくなるでしょう。

 

ところが、父親はこれを聞いて、「それじゃ、生前に子供に、すべての財産を贈与してしまうか」とはなりません。「すべての財産」というのは極端でも、生前に半分以上の財産を、子供に贈与する父親すら、多くないのです。

 

贈与税が高いという理由もありますが、子供に財産をあげすぎてしまうと、父親の気持ちが不安になったり、教育上もよくないと考えるからです。

 

そこで、父親が、子供にすべての財産を贈与しないのであれば、残りの財産について、相続での分け方を伝えておくべきです。

 

<正解 B>

遺言書だけで、子供が父親の意思を理解するには、限界がある。生前に、父親と子供が合意した上で贈与していけば、確実に意思は伝わる。

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