<父親が銀行の貸金庫を借りると>
A:手数料がかかるので、損をする
B:家族にとって、メリットがある
どっちが正解?
財産の内訳を教えたがらない父親は多いが・・・
誰でも、自分が死ぬということを考えたくありません。そのため、相続の話になると、「俺が死んだことを前提にするなよ」「親の財産を目当てにして、どうする」と怒ってしまう父親もいます。
また、父親としても相続の話はしたいが、不動産や生命保険は公開しても、預金や株式の残高を子供に教えたくないということもあります。「預金が5000万円もあるなんて・・・知らなかった」「投資信託を買って、こんなに含み損があったのか」などと、言われたくもありません。
それでも、父親が自分の財産について、生前に、家族に公開しておかないと、あとで、もめる原因を作ってしまいます。
「父親の退職金から計算すれば、5000万円はあると思っていたのに、1000万円しかない。誰かが隠しているか、生前に贈与されたのでは?」父親の相続のときに、家族のうち1人でも、このような感情を持つと、遺産分割はまとまりません。
それに、銀行には休眠口座の制度があります。理論的には、銀行は5年間、信用金庫などの協同組合は10年間、預金者が権利を行使しないと、消滅させることができます。
実際には、銀行が強硬に時効を主張することはなく、対応はしてくれます。とはいえ、相続が発生したあと、家族が通帳を見つけないかぎり、没収されてしまうのです。最近では、インターネットバンキングで通帳がないこともあり得ます。
父親が加入していた生命保険も、保険証券を見つけなければ、請求すらできません。生命保険の請求にも時効があり、原則は3年です。過去に住所変更していて、届出していなければ、保険会社からのハガキも来ないのです。また、父親から、「自宅に1000万円の現金がある」「遺言書は隠しておいた」と生前に聞いていても、タンスの裏にあったら、探せないでしょう。
貸金庫にしまえば、家族が財産の存在を見逃さずにすむ
そこで、父親が銀行の貸金庫を借りることをお勧めします。その中に、現金、銀行の通帳、保険証券、遺言書など、生前に子供に見せたくない財産は、すべて閉まっておくのです。
これには、3つのメリットがあります。1つ目は、父親が生前に、貸金庫の鍵の場所と暗証番号を子供に教えておけば、相続が発生したときに、財産が漏れるリスクはゼロとなります。もし、貸金庫の鍵が見つからなくても、再発行してもらえばよいのです。
2つ目は、父親が貸金庫を借りることで、相続について考え始め、自分の財産の一覧を把握しようという気持ちが生まれます。それが、家族に対して、父親から相続の話をする心の準備になるのです。
3つ目は、父親がすべての財産を、家族に発表してもよいと思ったときに、すぐに、対応できます。遺言書を作るときにも、自分が財産の一覧を忘れることもありますが、貸金庫に行って、見てくればよいだけです。
確かに、貸金庫を借りると銀行への手数料はかかりますが、父親だけではなく、家族にとってのメリットも考えれば、安いものです。
[図表]父親が貸金庫を借りると、相続の話が進む
このとき、「銀行の貸金庫の中に、父親が買った金の延べ棒を隠しておけば、その相続税は逃れられるのでは?」と甘い考えを持つ子供もいるようです。ただ、相続税の税務調査のときには、自宅にある金庫だけではなく、銀行の貸金庫に同行して、その場で一緒に中身を確認されてしまいます。
場合によっては、同時に子供や孫の家にも税務調査が入り、そこにある金庫を開けさせるケースもあるのです。
もし、財産を隠していたとみなされると、ペナルティはかなり重くなります。相続税の申告では、貸金庫にある財産は漏らさずに申告しておきましょう。
<正解 B>
父親が貸金庫を借りると、相続と向き合い、家族と話し合う準備が整う。相続のときに、家族が財産を見逃さないというメリットもある。