<財産を子供に相続させるとき>
A:当然、公平に分ける
B:あえて、不公平にする
どっちが正解?
財産を公平に分ける必要はない!?
父親は、「2人兄弟である子供を公平に育ててきたので、財産も、ちょうど半分になるように、分ければよいか」と簡単に考えがちです。ところが、2人の兄弟としては、お互いに、今までずっと公平だったと思っているケースは少ないのです。
例えば、長男と長女の2人兄弟だとします。長男は結婚せずに、両親と同居していますが、長女は、30年前に結婚して、子供が2人います。
長女は、「長男は、浪人したあと、東京の私立大学に通うために一人暮らしをして、大学在学中には1年間の海外留学も行った。自分は、現役で地元の国立大学に入学して、今まで子育てで忙しく、海外旅行に行ったこともない。そのあと、卒業した長男は、地元に戻り就職してからずっと、両親と同居して、お金を入れているのかも不明だ。私は、夫と一緒にマンションの住宅ローンをずっと返済してきたから、不公平だ」と考えています。
一方、長男は、「長女は、結婚したときに、父親から持参金をかなりもらったと聞いている。それに、マンションを買ったときの頭金や、最近では孫の私立大学の医学部の入学金と授業料を、正確な金額は不明だが、贈与されていたはずだ」と予測しています。
この段階で、お互いの立場が公平でないのに、残っている父親の財産を単純に2等分したら、納得できるはずがありません。
これを聞くと、父親は「子供が生まれてから、今まであげたお金まで公平に精算するなんて、覚えているはずもないし、バカげている」と言うのです。でも、民法では、被相続人である父親から、「①遺言による贈与(遺贈)、②婚姻や養子縁組のための贈与、③生計の資本としての贈与」を特別受益と呼び、相続財産に組み込んで、遺産分割の対象としているのです。
つまり、父親が遺言書を作っておかなければ、この長男と長女は、自分たちで過去に贈与された金額を調べて、財産を半分にすることになるのです。このとき、
「過去に贈与されたお金は、いつから時効になりますか?」
と聞かれることがありますが、「民法の特別受益には、時効がない」というのが答えになります。とすれば、相続で長男と長女がもめると、2人が過去のことで不満に思っていることを、すべて合算しなければいけないのです。
しかも、特別受益は、相続人だけが対象になるため、孫が贈与された金額は外したり、過去に贈与されたものは、相続時の時価になおす必要もあるため、相続財産の範囲とその金額を確定するまでに、時間がかかります。
そんなことをしても、父親の財産が増えるわけでもなく、長男も長女も、積極的にもめたいはずがありません。だから、2人が納得できる範囲内で、すぐに話がまとまるならば、財産を公平に分ける必要なんてないのです。
財産を一覧にし、子供とその分け方を話し合う
では、具体的に、父親はどうすればよいのでしょう?
父親が生前に、現時点での自分の財産と、今まで子供たちに贈与した金額を覚えている範囲でよいので、一覧にします。それが完了したら、子供たちを呼び、それをもとに、生前に財産の分け方を話し合えば、誤解や懐疑的な感情が消えるのです。
子供は、父親の財産を単純に公平に分けて欲しいと望んでいるわけではありません。父親から説明されて、自分が納得できる財産の分け方であれば、不満はないのです。
[図表]過去の贈与も合算して、財産は分けられる
もちろん、生前に分け方を決めていたとしても、相続のときに、財産の時価が大きく変動していたり、新事実が判明したり、子供が先に亡くなり、登場人物が変わることで、もめてしまうこともあり得ます。
そのため、生前の話し合いだけではなく、贈与して財産の名義を変えたり、遺言書を作成するなどの手続きも、同時に行っておきましょう。
<正解 B>
父親は、子供たちの立場が違うことを前提に、あえて、財産を不公平に分ける。もちろん、その理由を生前に説明して、納得はさせておく。