<母親の判断能力が劣っていたら>
A:一切の財産を、相続させない
B:父親が、妻の遺言書を作っておく
どっちが正解?
妻に不動産を相続させても、管理ができなかったら…
遺言書で相続する人を指定しておけば、遺産分割協議書がなくても、財産を相続することができ、名義も変えることができます。
それでも、民法では、相続人に、遺留分が認められています。
例えば、父親が遺言書で、自由に財産の分け方を決めることができたとしても、「愛人にすべての財産を相続させる」と書いたら、残された家族も生活があるので、困ってしまいます。
そこで、どのような遺言書の内容であったとしても、各相続人が最低限、受け取ることができる持分割合(遺留分)が定められているのです。
父親の相続が発生した日、または自分の遺留分が侵害されていることを知った日から、1年以内に、それを他の相続人に請求することができます。ただ、遺留分を侵害している遺言書であっても、その効力が無効になるわけではないため、財産の名義をその内容に従って、変えることはできます。遺留分が請求されたら、あとでお金や不動産で精算するのです。
では、父親の生前に、すでに妻の判断能力が劣っていたら、どうなるのでしょうか?
確かに、父親が、妻の老後の生活費のために、「アパートを相続させる」という遺言書を作っておけば、アパートの名義は、妻に変更されます。しかし、このままでは、妻がアパートを管理したり、賃借人との契約書への押印もできません。本当に、妻に賃料が渡るのか、不安です。
生前に、父親と長男で「信託契約」を締結しておく
この場合には、生前に、父親と長男で、信託契約を締結しておくのです。信託契約では、委託者の父親が、アパートという財産を、受託者の長男に管理させ、その賃料からの利益を、受益者の父親に渡す約束をします。
このとき、受益者を妻(母親)にしてしまうと、父親から利益を受け取る権利が贈与されたとみなされてしまうので、注意してください。受益者の権利は、父親の相続が発生したときに、初めて妻に移転させます。
この信託契約を使うと、遺言書にはない2つのメリットがあります。
①生前に財産の名義が変わる
父親と長男が信託契約を締結すると、財産の名義が、受託者の長男に変わります。法務局での登記も行うため、第三者に公開されます。これで、父親の生前から、長男が賃借人と契約したり、アパートの修繕も窓口となって、進めていくことになります。
父親として、将来もずっと、長男にアパートの管理を任せると宣言することにもなり、他の相続人と管理者でもめることも防げます。賃料からの利益は、あくまで受益者のものなので、父親の相続が発生したあとも、妻(母親)の生活費は保障されます。
②二次相続以降も指定できる
遺言書で、父親は自分の財産の分け方は決められますが、妻の判断能力が劣っているとしても、妻の財産の分け方についてまでは指定できません。
そのため、遺言書で妻がアパートを相続した場合、その次に誰が権利を引き継ぐのかは、父親が決めることはできないのです。家族で遺産分割協議書を作成するしかないため、もめる可能性があります。
それが、信託契約を使えば、父親が持つ受益者の権利を妻に移転させたあと長男に、さらに、その子供(孫)に引き継がせるように指定できるのです。この信託契約は永久に有効ではなく、「締結した日から30年経過後に、新しく受益者が決まるまで」となりますが、長男までは引き継げるはずです。
[図表]父親は長男とだけ契約すればよく、妻は必要ない
また、信託契約によって、管理者となった長男の地位(受託者)は、相続財産とはならず、相続税もかかりません。
一方、受益者の権利は、父親の相続財産となるため、信託契約の内容が他の相続人の遺留分を侵害していれば、請求されることもあり得ます。
<正解 B>
父親と子供の契約で、妻は財産ではなく、その利益だけを相続できる。妻の遺言書がなくても、父親が、妻の次に相続する人まで指定できる。