前回は、ニューヨーク、マンハッタンの不動産の概況について解説しました。今回は、米国不動産の特徴ともいえる「取引の透明性」を支える仕組みについて見ていきます。

全米の不動産取引情報が集まる「MLS」

近年、日本でも国をあげて中古不動産市場の活性化に力を入れているようですが、お手本にしているのはやはり、アメリカの売買システムです。

 

 

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、アメリカではMLS(Multiple Listing System)という、全米の不動産総合データベースがあります。このシステムは各地域の売り物件の全情報を網羅しており、各不動産会社が売り手と買い手の両方から仲介手数料を得るために売り物件情報を隠し持つことができないようになっています。

 

また、アメリカでは、法律で仲介業者が売り手、買い手のどちらを担当しているか、立場を明らかにすることが義務付けられており、ニューヨーク州でも2011年より、すべての売買および賃貸において、「Agency Disclosure Form」という書類にサインをもらうことを義務付けています。仲介業者が売り手と買い手の両方を担当する場合も、この書類にサインをもらいますが、その場合のリスクについても書類内で言及されているため、消費者保護の観点から見ても安心です。

 

契約の際にも、日本と異なるシステムがあります。それは、売り手と買い手の両方に不動産専門の弁護士をつけることです。

 

物件の価格や条件に口頭合意したあとは、売り手の弁護士が売買契約書を作成し、買い手の弁護士と詳細の交渉を進めます。

 

一方、買い手の弁護士は、クロージングまでに数多くのデューデリジェンスを行ないます。まず、コンドミニアムの場合は、「Offering Plan」と呼ばれるコンドミニアムの仕様書を確認します。この仕様書は辞書のように分厚く、500~600ページに及び、建築許可、契約に関する詳細や不動産税、管理組合の役割やルール、ビル全体に対しての各部屋の区分所有比率などが詳しく記載されています。この「Offering Plan」は、新築でも中古でも必ず売り手が買い手に提供しなければならず、売り手が所有していない場合は管理会社から購入します。

 

同時に、ビルの財務状況を示す財務諸表も過去2~3年分調べます。これにより、もし財務状況が悪く、積立金が少ないことが判明した場合は、特別積立金を課せられる可能性が考えられます。また、毎月支払わなければならないコモンチャージ(共益費)が何に使われているのか、大規模修繕の予定の有無などを確認できるので、物件を見学したときにはわからなかったさまざまなリスクを、事前に把握しておくことができます。

買い手の安心を生む「タイトル保険」とは?

そしてなにより、中古物件を購入するにあたって最も安心できるシステムは、「タイトル保険」だといえるでしょう。

 

タイトル保険とは、物件の権利にかける保険で、タイトル保険会社は当該不動産に対する所有権、抵当権、地役権、未払い税金、登記に関する詳細をまとめたレポートを発行します。そのレポートに記載されていない所有権や抵当権等、買主に不利となる事項が将来的に発生した場合は、その損害金額を保証してくれます。

 

この保証期間は当該物件を保有している間中無期限で、保険費用はクロージング時の支払い1回のみです。このシステムにより取引事故を未然に防ぐことができ、買い手は安心して中古物件を購入することができます。

 

 

次回はマンハッタンの賃貸契約についてご説明します。

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