納税資金対策を怠ると従来の財産を失うことも…
前回の続きです。
【相続の三原則】その②「納税資金対策」
第二に着手すべきが「納税資金対策」です。
相続となると、どの財産をいくら相続するかに関心がいきがちですが、その後に伴ってくるのが納税義務です。ここの対策をしっかりと練っておかないと、相続した財産だけでなく、最終的に個人の財産をも納税にあてるハメにもなりかねません。
作業としては、遺産分割案が決まったら、相続税の総額、各相続人の相続税の負担額が試算できます。ここで、相続する現預金から支払えれば問題ありませんが、もし足りなければ、相続人自身の貯えから払うのか、不動産を売却して納税にあてるかなどを検討する必要があります。
大切なのは長期的視点で対策を講じることです。
たとえば、不動産の売却で資金を作る際にも、相続財産として売却すれば、取得費加算の特例があり、譲渡税の圧縮ができます。しかし、相続人が相続前から所有していた不動産を売却した時には特例がなく、譲渡税を支払った後の残額で、相続税を払うことになります。
ちょっとしたことですが、時期一つ、あるいは何をどう売るかの判断一つで、手元に残るお金には大きな差が生じるのです。
もちろん、相続税を払えればそれで終わりではなく、相続後の安定した生活の実現を念頭に入れて、対策を検討する必要があることは言うまでもありません。相続申告後の生活に困ってしまうような納税方法も注意が必要です。収入源が大きく減少したり、現金が枯渇してしまうような納税方法は、木を見て森を見ず、森を見て山を見ず、のようなものです。
安易にアパート建築を勧める営業マンに要注意
【相続の三原則】その③「相続税対策」
いよいよ最後に登場するのが三番目の原則、「相続税対策」です。
これこそが、誰もが一番興味があるポイントでしょう。しかし、あくまでも「遺産分割対策」と「納税資金対策」をしっかりと吟味、検討し、その上で納税の必要があるならば、もっと安くできないかという観点で最後に着手するべきです。くれぐれも順番を間違えないようにしてください。
しつこいまでに注意を喚起するのには理由があります。
以前、私が関与した相続案件で、建築業者と金融機関に「お持ちの土地に借り入れでアパートを建築すると、相続税対策になります」と言われ、所有地全てにアパートを建築した方がいらっしゃいました。仮にHさんとしましょう。
建築資金は銀行からの融資がすんなり下りたものの、70歳を過ぎて今まで抱えたことがない1億円もの借金を背負うことが、予想以上のストレスとなってHさんにのしかかります。家賃は入ってきますが、借り入れの返済に即回されるだけ。思い描いていた穏やかな老後とはまるで真逆の生活に追い込まれます。
さらに、結局、相続税額は減少しましたが、ゼロにはなりませんでした。いざ相続が発生すると相続税を納める現金はなく、更地も残っていない。納税に回せる財産さえ残っていない状態でした。
私のもとに相談が持ち込まれたのは、その時でした。最終的には、全てのアパートを土地とともに売却し、金融機関への借り入れの残りを支払った後の資金で、やっとの思いで相続税を支払ったのです。
「相続対策を行う前段階で、ご相談いただければ・・・」
何とも悔やまれる案件でした。アパート建築をする前に、納税資金対策をしっかりとプランニングし、納税資金用に更地を残しておけば、こんな苦労はしなかったのです。もっといえば、どんなセカンドライフを送りたいかも併せて考えておけば、予想以上のストレスに悩むこともなかったはずです。そして、「相続税対策というだけで、なぜ安易にアパート建築を勧めたんだろう」と、業者に憤りさえ感じたことを覚えています。
くり返しになりますが、資産全体を洗い出すこともせず、ただ「節税対策ができます」と、自社の商品を売り込むような営業マンが来たとしても、決して口車に乗らないでください。そのためにも、「相続の三原則」を守るのはもちろん、順番は例外のない鉄則だと肝に銘じてください。