都道府県に広がる「診療所数」の格差
では、どんなところで開業するのがよいのか。
日本国内で開業することだけを考えても、1都1道2府43県、選択肢は果てしなくあります。たいていの方は、現在の勤務地のそばとか、生まれ育った実家の近所とか、パートナーの実家の近くとか、地縁のある場所で開業を考えるようですが、経営面を考慮すると、そうもいってはいられなくなります。
下記の図表は、都道府県別に見た人口10万対一般診療所数です。
[図表]都道府県別に見た人口10万対一般診療所数
一見しただけで、各都道府県で人口当たりの診療所数の多い少ないに、かなりの差があることがわかります。
人口対比で診療所数が最も多いのが和歌山県で、逆に最も少ないのは埼玉県です。
埼玉、茨城、千葉という東京周辺の都道府県は、首都圏に通勤する人が多く、人口が増大しているために、診療所の供給が追いついていない面があるのです。首都・東京だけはさすがに診療所も充実していますが、それを除けば東北から関東甲信越は、軒並み平均以下となっています。
逆に、人口対比で診療所数が多いのは、和歌山県、島根県、長崎県、徳島県になります。住んでいる方には失礼になってしまいますが、これらの県の名前を見て、人口が急激に増えている地域だと思う人は少ないのではないでしょうか。これらは、人口が伸び悩んでいるために、診療所数が過剰になりつつある都道府県です。
つまり、これからクリニックを開業するのであれば、人口がナチュラルに増加し続けている場所を狙わなければなりません。もし、人口減少地域で新たなクリニックを開業すると、既存クリニックとの熾烈な患者獲得競争が待っているからです。
人口増加ランキング1位は宮城県富谷町
では、どのような場所が人口増加地域なのでしょうか。そもそも、少子高齢化で人口が減少し続ける日本で、人口が自然に増加する場所があるのでしょうか。実は、たくさんあるのです。
2016年の日経BPインフラ総合研究所の調査による人口増加自治体・総合ランキングによれば、2010年の人口総数を100とした場合、トップの宮城県富谷町における5年間の人口増加率は9.67%となっています。
全国的な知名度も低く、人口約5万人の小都市であるにもかかわらず、人口増加ランキングではトップとなっているのです。さらに、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、2040年にかけての人口増加率は24.4%と、今後も順調に発展する予定です。その理由は、仙台市のベッドタウンとして多くのニュータウンが開発・分譲されているからです。
2位以下は、福岡県粕屋町、愛知県長久手市、福岡県新宮町、群馬県吉岡町と、いずれも人口6万人以下の小自治体が並んでいます。
これらはいずれも大都市のベッドタウンであり、若い世代にとっては比較的、安価に適度な広さの住居が構えられる自治体です。ですから、今後も夫婦や子どもの数が増えるだろうと予想されているのです。
[図表]人口総合ランキング2010-15 全国トップ20