現地企業のコントロールが利かなくなることも
前回の続きです。
私がこれまでに見てきた失敗事例でいちばん多いのは、現地の会社との間で合弁企業をつくって事業を始めたものの、合弁先との関係がうまくいかず、現地のコントロールができず、経営がめちゃくちゃになってしまうパターンです。
海外進出が初めてで、現地の人と付き合うのも初めてだという企業の場合、最初から合弁企業をつくるのはリスクが高いのですが、それをする企業は後を絶ちません。
実はアジアの新興国など、自国の産業を保護している国の場合は、海外資本の参入に際して外資100%での会社の設立を認めていないことも多く、事実上、合弁企業でなければ参入できないことも多いのです。そのため、多くの企業がやむなく、合弁という茨の道に踏み入ってしまいます。
ところが、合弁企業の場合は、日本企業と現地企業との両方から経営陣が入ることになります。この場合、たとえ人数的には半々であっても、会社自体が現地にあって、従業員も現地人が多いのですから、パワーバランスとしては現地企業のほうが強くなってしまいます。
信頼のできるパートナーであればいいのですが、そうでない場合、日本企業のコントロールが利かなくなって、乗っ取られたようになってしまうこともあります。
最悪の場合を想定した「契約書」の作成が不可欠だが…
私が聞いた事例では次のようなことがありました。
日本の自動車部品会社が、中国での生産拠点および販売拠点として、現地に合弁企業をつくったそうです。ところが、現地人の社長(総経理)が日本企業の言うことをあまり聞かず、日本企業のブランドを使って、勝手に別の製品をつくり始めました。
当然、日本企業は怒って人を送り込みましたが、中国人の社長は、現地での経営は任されているし、取締役会でも認められている、正統な経営判断だといって言うことを聞きません。
たしかに、売上や利益のうえではそれほど大きな損失は出していなかったのですが、日本企業のブランドで、勝手な製品をつくられては困ります。
長期間にわたって話し合いをしているものの、相手の言い分は「日本企業は半分を出資しているといっても株主にすぎないのだから、現地の経営に口を出すな」の一点張りです。結局、日本企業はやりたいことができずに、合弁会社を解消したいと申し出ましたが、契約を盾に取られてそれもできず、現在、裁判で争っています。
このケースでは、日本企業は技術を供与し、相手先の企業は人材や販売チャネルを持つという、お互いを補い合う提携の予定でした。しかし、相手先の企業もメーカーである以上、日本企業とは別につくりたい製品があったのです。そのため、日本企業には内緒で勝手に新しい製品の開発を始めてしまったのです。
海外進出にあたって、日本企業には、自社の製品に対する自信も勝算もありましたが、その製品で出た利益が、自社のあずかり知らぬところで勝手に使われて、まったく知らない製品をつくられていたのですからたまりません。結局、その合弁企業からは、ほとんど利益が上がらないという結果になってしまいました。
この事例からわかるのは、日本から遠く離れた、海外工場や海外拠点のコントロールの難しさです。現地での経営をうまく回すには、できるだけ現地の人材を使ったほうがいいのですが、行き過ぎると会社を事実上乗っ取られることになってしまいます。
このようなケースを防ぐためには、事前に最悪の場合を想定した契約書の作成が不可欠です。しかし、日本はあまり契約書にうるさい文化ではないために、どうしても契約内容が甘くなってしまいます。
日本企業同士であれば、お互いに利益のあるような落としどころを見つけることもできるのでしょうが、異文化で暮らす海外企業との交渉では、阿吽の呼吸が通じません。結局、契約書を盾に、日本企業がいいようにやられてしまうケースがよくあります。
合弁企業を使うと、現地企業の力を借りて事業の進展を加速することができますから、一概に悪いとはいえません。しかし、リターンが大きければリスクも大きいものです。中小企業が小さな初めの一歩として海外進出を考えるのであれば、ハイリスク・ハイリターンの合弁企業は避けて、自社だけで海外に行ってみることをおすすめします。