経済格差がある新興国で富裕層を狙う
先進国なら、日本からの輸出品でも、日本と同じ価格、もしくは輸送費や諸経費をプラスした価格で売ることができます。
では、新興国ではどうなっているのでしょうか。
結論を先にいえば、日本より物価水準の低い新興国であっても、日本とほぼ同じ価格で売れるものがあります。
実際、原価があって、輸出にさまざまなコストがかかっている以上、現地の物価に合わせた値下げなど、そうそうできるものではありません。たとえ価格が日本と同じであっても、確実に売れるものを海外に持っていくしかないのです。
新興国は物価が安いといっても、それは農産物や手工業品などがほとんどで、外国からの輸入品はいずれも高額で売られています。
誰がそれを買うのかといえば、全国民から見れば少数派の、富裕層や中間層です。新興国は平均物価や平均所得が低いとはいえ、国民の中にも格差があります。
日本企業が海外進出する際に、主にお客さまとなるのは、現地企業であったり富裕層であったりするので、平均物価や平均所得ばかりに注目していると本質を見失うことになります。
日本の「ビッグマック指数」は新興国と同じ!?
そもそも、日本の物価というものは、日本経済が好調だった20年以上前は、「世界一高い」などといわれたこともありますが、いまはそれほど高くありません。
イギリスの経済専門誌『エコノミスト』が報告している経済指標に「ビッグマック指数」なるものがあります。これは、全世界でほぼ同一品質で販売されているビッグマックの価格を各国で比較することで、それぞれの国の物価をはかるための指標です。
2016年のビッグマック価格を見ると、日本は370円で31位です。最も高いのは、スイスの764円で、以下、スウェーデン621円、ノルウェー619円、アメリカ585円、フィンランド523円と続きます。
北欧の国々が高価格なのは、おそらくその高福祉をささえるための高額な税負担(消費税)のためでしょうが、本国アメリカでもかなり高いことが驚きです。
これらはいずれも先進国の例ですが、欧米以外でいえばイスラエルが509円、コスタリカが477円、ウルグアイが444円、韓国が426円、アラブ首長国連邦が420円、トルコが404円と、いずれも日本よりも高額な価格設定になっています。
日本のビッグマック価格370円は、サウジアラビアの379円、タイの367円と同レベルであり、新興国と同じ物価水準であることがわかります。
また、同じビッグマックが、中国では318円、ベトナムでは317円、フィリピンでは331円、パキスタンでは339円と、アジア諸国はさすがに日本よりも安くなっていますが、そこまで差が大きいわけでもありません。
円高の影響もありますが、ビッグマックの価格を見れば、日本と新興国との物価の差などほとんどないことがわかるでしょう。
実際、「爆買い」などと言われるように、昨今、中国人観光客が日本を訪れてさまざまな商品を大量に買い込む様子が報道されるようになりました。
この「爆買い」をしている中国人観光客は、特別に富裕層ばかりというわけではありません。所得が向上した中間層が、消費を楽しんでいる側面が大きいのです。
中国のメディアによれば、2015年の春節(中国の正月)休暇に、日本を訪れた中国人観光客は約45万人で、その消費額は1140億円にのぼるそうです。
官公庁の「訪日外国人消費動向調査」でも、中国人観光客の一人当たり支出額は約28万円で、他の国からの観光客に比べて群を抜いて多くなっています。
中国人観光客の「爆買い」の背景には、質の良い日本製品に対する圧倒的な信頼と購買意欲があります。そこに、中国国内と日本で購入した際の、日本製品の販売価格差の大きさが要因として加わり「爆買い」を生み出しているのです。
いずれにせよ、たとえ新興国であっても、安心と信頼の日本の製品・サービスに対する需要は非常に高いです。現地の競合製品と比べると、日本製品はたしかに高額になるのですが、高品質の高級品として買ってもらうことができています。