海外産の安い木材に押され、需要は年々減少
本連載ではまだ名前を出せませんが、とある製材メーカーも、海外市場のニーズを見極めて海外進出に挑戦しています。
製材とは木材加工のことです。国産の木材は海外産の安い輸入材に押されて、年々需要が減少していますから、製材メーカーは、日本では典型的な斜陽産業になります。減少する国内市場にこだわっていても道は切り拓けません。そこでこの企業は、国産木材の良い点を活かして、なんとか海外市場に進出できないかと考えました。
しかし、普通に木材、製材品を輸出しようとしても、価格の面で勝負になりません。どんなに国産の木材の質が良いといっても、それだけでは価格に見合った価値を感じてもらえません。国産材の魅力を伝えやすい国内市場ですら輸入木材にシェアを奪われているのですから、海外で日本の木材の良さを伝えるのは並大抵のことではありません。
安価な木材を使った浄水装置を開発し、新興国に進出
そこで、その製材メーカーでは、日本の技術を使った木材の加工品で勝負ができないかと考えました。木材は加工がしやすく、また香りや温もりをはじめ、さまざまな付加価値があります。中でも、その企業が注目したのは濾過(ろか)機能でした。
木炭や竹炭に、水質を改善する濾過作用があることはよく知られていますが、炭化していない木材にもまた濁水を濾過する作用があります。そのメーカーは、木材を使って工業廃水などを濾過する浄水装置をつくり、新興国に売り込んだのです。
もちろん、木材の濾過作用を活かした浄水装置は、本格的なハイテクの浄水機械には品質の面ではかないません。
しかし、工業製品としての浄水機械に比べて、木材を使った浄水装置は、かなり安価に導入することができます。高価な機械を購入する余裕のない新興国の町工場にとっては、安価な木材の浄水装置はありがたい存在です。運よく当該国における排水規制強化という追い風もあり、現在、好業績を続けています。
このように、海外の市場には日本とは異なる課題と需要がありますが、それらの課題を解決し、需要を満たす手段が、必ずしも現地の企業によって提供されているというわけではありません。
日本企業が、日本の技術で海外の課題を解決し、需要を満たしていくことは、日本企業にとっても、海外の顧客にとっても、どちらにもメリットのある、WIN―WINの関係を築くチャンスでもあるのです。