「家がある」「娘がいる」…母の安心と、娘の現実のずれ
子や孫を経済的に支える親は、珍しくありません。内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」によると、80~84歳の女性でも23.6%が、子や孫の生活費を「ほとんど」または「一部」負担しています。
ただ、子や孫を助けるお金も、自分のこれからを支えるお金も、同じ収入や預貯金から出ていきます。援助できるかを考えるときには、いまの暮らしだけでなく、介護が必要になった場合の費用も見込んでおきたいところです。
生命保険文化センターの「2024年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」では、介護にかかった一時費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円、介護期間は平均4年7ヵ月(55ヵ月)でした。これらの平均値を使って単純計算すると、47.2万円+9万円×55ヵ月で約542万円になります。
ただし、介護期間には現在介護中の人の経過期間も含まれます。裕美子さんの母にこの金額が必要になるという意味ではなく、実際の費用は介護の場所や状態、期間によって大きく異なります。
母が安心の根拠にしていた「家」と「娘」も、これからの支出をどう賄うかという点では曖昧です。自宅を姉に残したいという希望と、自分の生活や介護の資金として活用する可能性を、どう両立させるかは母親の話からは見えてきませんでした。娘に頼るという想定も、裕美子さん本人の了承を得たものではありません。
母には、娘や孫を助けたいという思いがある一方で、自分が支援を必要とするとき、なににいくらかかり、誰になにを頼むのかまでは、具体的に考えていなかったのでしょう。
「残す財産」より先に、「これから使うお金」を確かめる
裕美子さんは、母の言葉に戸惑いながらも、まずは入院に必要な準備を進めました。今後のお金や暮らしについては、母の体調が落ち着いてから、姉も交えて話し合いたいと考えています。
家族になにを頼むかを話し合うには、まず年金などの収入や預貯金で、これからの暮らしをどこまで支えられるかを確かめます。その際は、利用できる制度を踏まえて見積もることが大切です。
手術や入院には、保険診療の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」があります。マイナ保険証の利用などにより、保険診療分の窓口負担を自己負担限度額までに抑えられます。ただし、入院時の食事代や差額ベッド代などは対象外です。退院後に生活の支援や介護が必要になりそうなら、親が住む地域の地域包括支援センターが相談窓口です。
こうした支援も踏まえ、これから必要になるお金を「日々の生活費」「医療・介護の費用」「住まいにかかる費用」という視点で整理してみましょう。いまの家で暮らし続ける場合は修繕や暮らしやすくするための改修、住み替える場合は入居時や毎月の費用などを確認します。家を誰かに残したいという希望があるなら、親自身の生活資金と両立するかも確かめておきたいところです。
そして、親が子どもに頼みたいことを具体的にします。通院の付き添いなのか、手続きの手伝いなのか、費用の援助なのか。「なにかあったらお願い」のままでは、頼む側と頼まれる側で思い描く負担が違うかもしれません。子どもにも仕事や家庭、自分自身の老後があります。きょうだいそれぞれができることを伝え、家族で担うことと、外部に頼むことを整理します。介護保険で足りない部分も含め、利用できる支援と費用を相談窓口で確認しておきましょう。
親の「なにかあったら」のなかに、あなたの名前が入っていないか。そして、それを本当に引き受けられるのか。一度、確かめてみてはいかがでしょうか。
三原 由紀
合同会社エミタメ
代表
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