「事業所調査」と「家計調査」の2種類で構成される米雇用統計
米雇用統計は2種類の調査で構成されます。
1つは事業所調査(CES)で、約11.9万社の企業および政府機関の約62.2万事業所の給与明細を調査しています(サンプル数は2026年5月現在)。もう1つは家計調査(CPS)で、毎月約6万世帯に対して電話や戸別訪問を通じて聞き取り調査を行っています。
以下では、この2種類の調査について詳しく解説します。
事業所調査:NFPが最も重要
雇用統計の事業所調査では、給与明細をベースに、(1)非農業部門雇用者数(Non-Farm Payroll=NFP)、(2)平均時給、(3)平均労働時間などを算出します。このうち、最も重要なのはNFPです。市場はNFPの前月比の増減を事前予想と比較して一喜一憂します。
NFPでは、全体の数字だけでなく、業種別の内訳を見ることも重要です。NFPは民間と政府に大別でき、民間部門の雇用者が全体の約85%を占めます。民間は財部門(鉱業・採石業、建設業、製造業)、サービス部門(卸売・小売、輸送・倉庫、公益、情報、金融、専門・企業サービス、教育・健康、娯楽・宿泊、その他サービス)に分けられます。
製造業の雇用者数は1980年代から2010年代初めまで減少を続けてきました。トランプ大統領は2017~2021年の1期目と2025年からの2期目を通じて米国の製造業再興を掲げていますが、現在もNFPに占める製造業の割合はわずか7.9%に過ぎません。NFPの約70%は民間サービス部門です。
最近のNFPは実態を過大評価する傾向も
NFPは非常に重要な指標ですが、2025年8月1日に発表された7月米雇用統計では、過去2か月分の数値が合計25.8万人も下方修正され、衝撃を与えました。トランプ大統領は、米労働統計局(BLS)のエリカ・マッケンターファー局長を即座に解任することを発表しました。
このように大幅な修正が行われた一因には、事業所調査(CES)の回収率がコロナ禍前の約60%から今では40%台まで低下しているため、当初の発表段階では全体像が掴みにくくなっていることがあります。BLSは当初発表から2か月後までに回収されたデータをNFPに順次反映させるのですが、その過程で雇用が想定以上に悪化していたことが明らかになったといえるでしょう。
また、BLSは毎年1回、3月分のNFPのデータを実績値(ベンチマーク)と照合する作業を行います。ベンチマークとしては、全雇用主が義務付けられる雇用保険税の支払データが用いられます(雇用保険税は従業員の給与額に対して課税されるため、雇用者数と賃金の正確なデータが把握できます)。
つまり、米国全体を網羅する実績ベースの給与明細のデータを用いて、雇用統計のサンプル調査に基づくNFPの発表値が正確だったかどうかの「答え合わせ」が行われるのです。その暫定的な結果は8月または9月に公表され、1月分の雇用統計で前年までの数字が遡及改定されます。
2026年1月の雇用統計で発表されたベンチマーク改定では、2025年3月のNFPの水準が89.8万人も下方修正されました。
NFPは平時には速報性と信頼性を兼ね備えた指標ですが、サンプル調査という性質上、常に実態を正確に反映しているとは限りません。このため、後述の家計調査と併せて判断する必要があります。
平均時給と平均労働時間
事業所調査には平均時給のデータも含まれます。市場では、平均時給の水準ではなく、前月比と前年同月比の上昇率が注目されます。
注意が必要なのは、雇用統計の平均時給は一般的にイメージされる「雇用者の時給の平均」とは異なり、全体の賃金総額を総労働時間(雇用者数×平均労働時間)で割ることで平均を計算したものだということです。
このため、平均時給が実際の賃金上昇率と異なる動きを示す場合もあります。例えば、低賃金の労働者が解雇されたことで高賃金の管理職の比率が増えた場合には、平均時給が上昇したように見えてしまいます。これはコロナ禍の初期に実際に起こり、2020年4月の平均時給の前年比上昇率は8.1%と前月の3.5%から急加速しました。
賃金のトレンドをより的確に捉えるために、時給で働く雇用者の比率が高い「生産部門・非管理職」に限定した平均時給がよく用いられます。
平均労働時間は、民間雇用者が調査週の1週間にどれだけ働いたかの平均値です。企業は雇用を増やす前に既存の従業員の労働時間の延長で対応する傾向があるため、先行指標として用いられることがあります。
また、雇用者数と平均労働時間を掛け合わせたものは総労働投入時間と呼ばれ、経済活動の強さを示す指標となります。





