申告書を出し忘れたら「税金を取られっぱなし」になるわけではない
公的年金の制度は、所得税や住民税、各種控除が絡み合うため「なにがどうなっているのか理解できない」と感じる人は少なくありません。正雄さんのように「国がわざと難しくしているのではないか」と疑ってしまうケースも見受けられます。ここで一度、制度の正しい仕組みを整理しておきましょう。
老齢年金などは、一定額以上になると所得税の源泉徴収の対象になります。日本年金機構によると、2026年分は、65歳以上の場合、年間の年金額が205万円以上、65歳未満では155万円以上の人が所得税の源泉徴収対象です。
そこで関係してくるのが、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」です。これは、年金から所得税を源泉徴収する際に、配偶者控除、扶養控除、障害者控除などの人的控除を反映してもらうための書類です。提出先は税務署ではなく、年金の支払者。日本年金機構から年金を受け取っている場合には、日本年金機構へ提出します。
ちなみに、2027年分の申告書は2026年9月7日から対象者へ順次送付されています。2027年分からは送付対象が拡大され、65歳以上では年金額148万円以上など、住民税の課税対象となり得る人にも案内されるようになりました。「うちにも届いていたような……」という人は、一度確認してみてください。
誤解されやすいところですが、扶養親族等申告書を提出しなかったからといって、提出した人より高い税金を払わなければならないわけではありません。
日本年金機構によれば、未提出でも基礎控除は源泉徴収の計算に反映されます。一方、配偶者控除や障害者控除などに該当する人が申告書を提出しなければ、それらが反映されないため、結果として所得税や住民税が多く徴収される場合も。つまり、「申告書を出さなかった罰として税金を取られている」のではないのです。源泉徴収の段階で、日本年金機構が把握できていない控除を反映できないため、その分の税額が多くなっているということです。
今回の正雄さんの場合、妻の恵子さんが所得要件などを満たしていれば、配偶者控除などが関係してきます。仮に38万円の所得控除が源泉徴収に反映されず、5.105%の税率で単純計算すると、その差は年間約1万9,000円です。控除される金額はその他の条件によっても異なり、AIに概算を尋ねることはできても、その数字だけで自分の最終的な税額だと判断するのは危険でしょう。
そして最も重要なポイントは、「提出期限を過ぎても救済策がある」という点。期限後であっても申告書を提出すれば、その年の最初の支払いに遡って税額が再計算されます。また、最終的な源泉徴収額が本来の税額より多ければ、確定申告を行うことで還付を受けられる場合があります。
公的年金等の収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下などの条件を満たす人には「確定申告不要制度」もありますが、申告義務がなくても、払い過ぎた所得税の還付を受けるために確定申告することは可能です。
なお、正雄さんのようにアルバイト収入がある場合は、その所得額などによって確定申告が必要になることもあります。還付申告をする場合には、年金だけを切り離すのではなく、給与などほかの所得も含めて申告しなければなりません。
正しく疑問を持ち、適切な窓口へ相談を
公的年金は、受給が始まればなにもしなくても同じ金額が振り込まれ続けるものではありません。税金や社会保険料が差し引かれ、家族構成や所得、各種控除によって手取り額が変わることがあります。そして、扶養親族等申告書も、その税額を正しく計算するために必要となる書類の一つです。
年金や税金について、「もっと簡単な制度にできないのか」「高齢者にもわかりやすい書類にしてほしい」という意見が出るのは当然の側面もあります。簡略化できるのであればそれに越したことはありません。実際、公的年金に税金、社会保険料、配偶者控除、扶養控除……と制度が重なれば、専門知識のない人にとって理解するのは簡単ではないでしょう。
一方で、正雄さんには、「多く引かれた税金は、もう戻ってこないのですか?」と確認することもできたはずです。日本年金機構では、扶養親族等申告書について問い合わせ窓口を設けていますし、2026年9月現在はマイナポータルとねんきんネットを連携すれば、スマートフォンやパソコンから電子申請することもできます。
税金についてわからないことがあれば、確定申告の際にやり方を教えてもらいながら行うなど、税務署に相談することもできます。
制度が複雑だからこそ、わからないまま放置したり、ネットやAIで見つけた情報だけを頼りに「損をさせられた」と決めつけたりせず、関係機関に確認することが大切です。
制度を覚えておく必要はありませんが、今回のように不安になったときやわからないとき、「どこへ聞けばいいのか」を知っておくことも、大切な金融リテラシーの一つです。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
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