ヘルシーな印象で話題になった植物性乳酸菌
乳酸菌=牛乳というイメージをくつがえしたのが「植物性乳酸菌」の登場です。日本で植物性乳酸菌入り飲料が発売されたのは10年ほど前。乳酸菌がもともと持っている、腸に良いイメージに加え、植物=ヘルシーという新たなイメージも獲得し、ブームを巻き起こしました。
植物性乳酸菌は、その名の通り植物を発酵させた乳酸菌の総称で、代表的な植物に京漬物で知られるスグキがあります。スグキとは酸茎菜というカブの変種で、旬は冬。塩で1週間余り漬けた後、さらに1週間ほど発酵させてつくります。
この発酵によって増えるのが、植物性乳酸菌です。動物性乳酸菌よりも腸への到達率が良く、したがって腸内環境を整える力も優れているというのがセールスポイントでした。植物性乳酸菌入り飲料がヒットしたのは、こうした動物性との差別化の他、京野菜という産地が限定された食材の特別感もあったのかもしれません。
乳酸菌そのものの性質は、動物性も植物性も変わらない
しかしこれも、先の「生きた菌」と同じく、腸にもたらすメリットは言われているほどではない、というのが研究に携わってきた者としての意見です。
そもそも、植物性乳酸菌、動物性乳酸菌と言っているのは、乳酸菌を育てる「えさ」が植物性か、動物性かを指しているのにすぎないのです。つまり、乳酸菌そのものの性質は、えさが植物性でも、動物性でも違いはないのです。
これを、えさが植物性だから、増えた乳酸菌はヘルシーだろう、というのは思い込みにすぎません。これにはメーカーのイメージ戦略も多分にあると思っています。
しかも、スグキは前述のように、収穫してから漬物として完成するまで2週間~3週間はかかります。ちなみに、伝統的な漬け方では低温で何カ月もかけて発酵させるとも。そうなると、同じ製法ではとても、飲料として量産はできません。
今、市場に出回っている植物性乳酸菌入り飲料の中には、短時間で発酵させるために乳を使っているものもあります。乳のほうが短時間で増えやすいからです。つまり、もともとの菌はスグキから発見されたとしても、製品化の際には乳、つまり動物性のえさでも増えるようにアレンジして、量産できるように早く発酵させているというのが実情です。
こうした製品のパッケージを見ると、原材料名に「乳」と書いてありますが、それはこのような事情があるためです。
ここまでで、植物性乳酸菌が動物性乳酸菌よりも優れているかのような認識は正しいものではないことがおわかりいただけたかと思います。まして、前回話した通り、そもそも外から乳酸菌を摂ること自体、たとえ生きた菌であっても、腸内環境を改善するための役に立つことはほとんど期待できない、というのが専門家の共通した見解です。
植物性であろうが、動物性であろうが、前回ご紹介した光岡先生の論理で言えば、バケツ1杯分を毎日摂り続ける必要がある、ということです。