夜中の呼び出し、通院の付き添い…少しずつ変わった家族の日常
ある夜、和子さんはトイレへ向かう途中で転倒しました。幸い骨折はしませんでしたが、それをきっかけに息子夫婦は今後について話し合うようになりました。
数週間後、浩一さんから切り出されました。
「母さん、このままずっと家だけで見るのは難しいと思う」
和子さんは、すぐには意味が分かりませんでした。
「私はここを出るの?」
浩一さんは、追い出したいわけではないと説明しました。
仕事がある日中は夫婦とも家を空けます。夜も「また転ぶのではないか」と気になり、十分に眠れないことが増えていました。妻も入浴時の見守りなどを担っていましたが、身体状況がさらに変われば家庭だけでは対応できないと考えたのです。
「ずっとここにいられると思っていたから……。前の部屋も、家具も全部なくしてしまったでしょう」
和子さんはそう漏らしました。同居を始めた時点では、誰も1年後に別の住まいを探すことになるとは想像していませんでした。
厚生労働省の介護保険制度では、要介護・要支援認定を受けた人は、所得に応じて原則1~3割の自己負担で介護サービスを利用できます。自宅で利用する訪問介護や通所介護のほか、一定の条件を満たせば施設サービスも選択肢になります。
和子さん一家も地域包括支援センターに相談し、要介護認定の申請を行いました。家族だけで結論を出すのではなく、ケアマネジャーとも相談しながら、在宅サービスを増やして同居を続けるのか、施設を含めて別の住まいを探すのかを検討することになりました。
ただし、和子さんには経済的な問題もあります。年金は月8万円、預貯金も残りわずかです。施設で暮らす場合、利用できるサービスだけでなく、居住費や食費を含めて支払いを続けられるかを確認しなければなりません。
介護保険には、所得など一定の条件を満たす人を対象に、介護保険施設等の食費・居住費を軽減する「特定入所者介護サービス費」や、1ヵ月の利用者負担が上限額を超えた場合に超過分が支給される「高額介護サービス費」などがあります。ただし、対象になるかは所得や資産、利用する施設などによって異なります。
現在、和子さんは息子宅で生活を続けながら、今後の住まいを探しています。
「息子が面倒を見てくれると言ったから、もう住む場所の心配はいらないと思っていました。でも、息子たちだって年を取るんですよね」
息子との同居を選んだこと自体を後悔しているわけではないといいます。それでも、以前とは考え方が変わりました。
「家族と一緒に住めば、それで最後まで安心というわけではなかったんですね」
高齢期の同居では、現在の生活だけでなく、親の身体状況が変化したときに誰が何を担えるのか、同居が難しくなった場合にはどこで暮らすのかまで考えておく必要があります。
一家は今、同居を失敗だったと結論づけるのではなく、それぞれが無理なく生活を続けられる次の形を探しています。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

