聴衆　ざわ……ざわ……

 

司祭補「たしかに～、異端信仰をしている人には精霊教会のお仕事は頼めませんわぁ……」

 

財務大臣「ふふふ……。どうだ、女たちよ。何か申し開きすることはあるか？」
女騎士「……」

 

黒エルフ「そんな……」
女騎士「……」

 

黒エルフ「き、きっと何かの間違いだわ！　８万Ｇも無駄づかいするなんて──」

 

女騎士「いいや、本当なのだ。銀行家さんは芸術家育成のための私塾を開講しようとしている。精霊の像は、塾で資料として使うらしい」

 

黒エルフ「はぁ、私塾？　そんなの聞いてないわよ！」
女騎士「言ってなかったのだ……」

 

黒エルフ「そんな大事なこと、どうしてあたしに相談しないのよ！」
女騎士「相談したら怒ると思って……」

 

黒エルフ「怒るに決まってんでしょう！　あたしがどんな気持ちで不良債権の回収に当たっているか──」

 

女騎士「あわわ、声が大きいのだ！」

司祭補「あらあら、不良債権ですかぁ～？」

 

財務大臣「よくお考えください、司祭補さま。港町銀行はたくさんの不良債権を抱えて、異端信仰の疑いがあり──」

 

司祭補「精霊の像は、私塾で使う資料でしょう？」

 

財務大臣「たとえそうだとしても、あのダークエルフはそのことを知りませんでした。職員間の情報共有に不備があるのは明白です！」

 

頭取「うわさと言えば、興味深い話を聞きましたなぁ……」ニヤニヤ
財務大臣「ほう、どんな話だ？」ニヤニヤ

 

頭取「ふた月ほど前、港町にダークエルフの奴隷が入荷されたのだとか」

女騎士・黒エルフ「「──！？」」

 

頭取「その奴隷を、若い女騎士が高額で買い取った……。そんなうわさを耳にしました」

 

財務大臣「ふぅむ。ただでさえ数が少ないダークエルフだ、この地方では非常に珍しい……」ニヤニヤ

 

司祭補「たしかにそうですわねぇ」

財務大臣「おい、ダークエルフ。お前はその奴隷について何か知っているのではないか？」

 

黒エルフ「～～～～っ！」

 

財務大臣「言っておくが、司祭補さまの前で嘘をつくではないぞ？」

女騎士「そ、それは、その……」オロオロ

 

黒エルフ「……それはあたしよ」ボソッ

 

女騎士「な……！」
頭取「ほう！」

 

財務大臣「なんだ、よく聞こえなかったが？」ニタァ

 

黒エルフ「だから、その奴隷はあたしよ！　港町に売り飛ばされて、この女に買い取られたの！」

 

女騎士「余計なことを言うな──！！」

 

黒エルフ「いいえ、正直に言わせてもらうわ。あたしは25万Ｇで買い取られた、この女の奴隷なのよ！！」

 

女騎士「わ、私はいつでも自由の身になっていいと言ったのだ！」
財務大臣「しかし実際には、今でも奴隷の身分なのだろう？」

 

黒エルフ「ええ。影国には『払う者には施せ』という格言があるから……」
ショタ王「ふむ。意味は？」

 

黒エルフ「相手が誰であろうとカネを払った者には金額ぶんの何かを提供せよ、という意味よ。たとえ、どんなに気に入らない相手だろうとね。この女は25万Ｇを払った。だから、25万Ｇぶんの働きをするまでは、あたしはこの女の奴隷よ」

 

女騎士「バカな！　25万Ｇぶんの働きをするまで自由にはなれないだと？　私はそんなことでお前を縛るつもりはない！」

 

黒エルフ「あんたが縛らなくても、あたしの心が縛るのよ！」
頭取「驚きましたなぁ。まさか、そのダークエルフが奴隷だとは」

 

財務大臣「つまりお前は奴隷の分際でありながら、司祭補さまの御前に出て、恐れおおくも言葉を交わしたのだな？　あまつさえ、仲介業者に立候補したのだな？」

 

黒エルフ「そうなるわね……」ギリッ

女騎士「ま、待ってくれ！　たしかにこの娘は奴隷の身分だ。しかし私は──」

 

財務大臣「お前も同罪だ！　この娘が奴隷であることを隠して、司祭補さまに近づいた。どんな血筋の生まれだろうと、精霊教会の聖職者さまをたばかるのは許されざる罪だぞ！」

 

頭取「おお、あな恐ろしや……。精霊さまの怒りを怖れぬとは、なんたる冒涜……」

 

聴衆　ざわ……ざわ……

 

ショタ王「……何か、申し開きがあるなら聞こう」
財務大臣「国王陛下のご寛大さに感謝するのだな」

 

女騎士「……」
黒エルフ「……」

 

頭取「何もないようですね」

ショタ王「ならば、話は尽きたな」