財務大臣「司祭補さま、どうかご裁決を。罪人たちに罰を、そして仲介業者には帝都銀行を──」
司祭補「う~ん、よく分からないのですけどぉ……。彼女たちは、わたしを騙したことになるのかしらぁ?」
財務大臣・頭取「「……は?」」
財務大臣「し、失礼ながら、ご真意を測りかねます。この者たちが司祭補さまを騙そうとしたことは明白です。自らの身分を隠して──」
司祭補「隠すもなにも、わたしは彼女たちの身分を訊いてないわよぉ?」
財務大臣「へ?」
司祭補「訊かれなかったから、答えなかった。それだけでしょう? わたしを騙したことにはならないはずよぉ?」
財務大臣「理屈ではそうかもしれませんが……」
司祭補「うふふ、こんなお話をご存知かしら? 帝都の大商店街に、つい最近、腕のいい理髪外科医院ができたそうよ」
ショタ王「理髪外科医院?」
財務大臣「平民が髪を切る場所でございます」
司祭補「そちらのみなさんはご存知よねぇ?」
女騎士「は、はい」
黒エルフ「知っているわ」
頭取「じつは私もそこで髪を切りましたが……?」
司祭補「その理髪外科医院は、帳簿を上手くつけられずに困っていたの。だから2組のお客さまに、記帳を手伝ってもらったのよ〜」
頭取「は、ははは……。さようでございますか」ダラダラ
女騎士「?」
司祭補「片方の客は、みごとに帳簿の間違いを見つけてくれたわ。だけど──」
頭取 ガタガタ……
司祭補「だけど、もう片方のお客さまはお金を騙し取ろうとしましたの。帳簿の知識がない相手なら、簡単に騙せると思ったのでしょうねえ。……そうですよね、頭取さん♪」
頭取「う、うう……」
黒エルフ「いったい何の話……?」
女騎士「分からん。なぜ司祭補さまは理髪外科医院のことを知っているのだ?」
司祭補「侍女さぁん、あの香炉を持ってきてくださいまし」
侍女「はい、ただいま」
女騎士(あの侍女、どこかで見覚えが……)
司祭補「このお香の煙は、お祈りの力を強めて、魔法を上手く使うために必要なものですわ」
ショタ王「そういえばあなたには魔術の心得があったな」
財務大臣「まさか……」
司祭補「このお香のニオイに覚えはなくて?」
ふわぁ
女騎士「こ、このニオイは!」
黒エルフ「理髪師がつけていた香水のニオイだわ!」
司祭補「実際には香水ではなくて、衣服に染み込んだお香のニオイだったというわけ。うふふ、もう分かったかしら?」
女騎士「……なるほど、そういうことだったのか。大商店街で買い物をしているときに、尾行の気配を感じた。あれは司祭補さまが差し向けた者だったのですね」
司祭補「ごめんなさいね、身辺調査をさせてもらいましたぁ」
女騎士「これでハサミの謎も解けた」
黒エルフ「どういうこと? 説明しなさいよ!」
女騎士「まだ分からないのか? あの理髪師は、司祭補さまご自身だったのだ」
黒エルフ「へ?」
女騎士「司祭補さまが使える魔法は、幻惑系ですね?」
──ボフッ!!
理髪師「正解っ! ワタシは変身魔法が使えるのよぉ!」
財務大臣・頭取「なっ……!?」
侍女「司祭補さま、はしゃぎすぎです」
女騎士「そして、そちらの侍女さんがあの女中の正体ですね」
侍女「はい、お世話になりました」
女騎士「侍女さんも変身魔法が?」
理髪師「いいえ、あれは特殊メイクよぉ」
黒エルフ「特殊メイク」
理髪師「ワタシのメイクの技術は魔法じゃないわ。ほ・ん・も・の♪」
黒エルフ「本物」
頭取「う、うぅ……」ガタガタ
財務大臣「なぜ、こんな手の込んだことを……?」
理髪師「どんな方が仲介業者に立候補したのか、ワタシの目で直接拝見したくなったのよぉ~」