▼翌日
正午の鐘 ゴーン……ゴーン……
▼精霊教会、第3礼拝堂
黒エルフ(……まさか、あんたがあんなにスピーチ下手だったとはね)
女騎士(うぅ、面目ない。緊張したら舌が回らなかったのだ。歩兵を鼓舞するのとは勝手が違った)
黒エルフ(それに引き替え……あの男のスピーチは見事なものね)
頭取「……以上でございます」
司祭補「はぁい、お話ありがとうございましたぁ」
ショタ王「ふむ、資産総額では帝都銀行のほうが圧倒的に大きいのだな」
財務大臣「それだけではありません。広大な商売のネットワークを持っているのも強みかと」
頭取「フフ……、お褒めにあずかり光栄です」
女騎士・黒エルフ「「……」」
司祭補「では今からぁ、ご依頼する銀行を決めますわねぇ」
頭取 ニヤリ……
財務大臣 ニヤッ……
財務大臣「……お待ちください!」
司祭補「あらあら、何かしら~?」
財務大臣「ダメ押しに……。いえ、念のため、お伝えしておきたい情報がございます」
司祭補「うふふ、聞かせてくださいな」
財務大臣「こちらの目録をご覧ください」
ぴらっ
司祭補「えっとぉ、これは~?」
財務大臣「とあるスジから入手した商品目録です。港町銀行がここ1ヶ月ほどの間に購入した物品が記載されています」
女騎士・黒エルフ「「!」」
司祭補「う~ん、とくに変わりは無いようですけどぉ~~?」
ぱらぱら
司祭補「しいて言うならぁ、美術品の購入が多いかしら?」
財務大臣「さよう。まさにそこが問題なのです」
ショタ王「港町の銀行家は芸術オタクなのか?」
財務大臣「ただの芸術オタクではありません。目録の6ページ目をご覧ください」
司祭補「これはぁ……古物商からの購入品の一覧?」
財務大臣「そのページに『精霊の像』を購入したことが記されています。金額にして、じつに8万G」
黒エルフ「なんですって!?」ガタッ
女騎士(あちゃー)
黒エルフ「う、嘘よ……。8万Gですって? 女中4人を1年は雇えるほどの金額だわ……信じられない……」
財務大臣「私が嘘をついていると申すのか!」
黒エルフ「え、えっと……」
財務大臣「このお方は神聖なる精霊教会の司祭補さま。その御前で嘘をつくことがどれほどの重罪か、分かっているであろう」
黒エルフ「うぐ……」
財務大臣「私とて政治家の1人、権謀術数を巡らせてこなかったと言えば嘘になる。だが、精霊の御名に誓って、この商品目録に記されていることは真実だ!」
黒エルフ「うぐぐ……」
財務大臣「なにより、精霊教会の教えでは、偶像崇拝は禁じられているはず! そうでございましょう?」
司祭補「ええ、正統な教義ではそうですわねぇ……」
財務大臣「では、精霊さまの姿をかたどった像を作ることは許されますかな?」
司祭補「今の正統派の教義では、ちょっとマズイですわぁ。最悪の場合は火あぶりかもぉ~」
財務大臣「司祭補さまの言葉どおり、精霊の像を作ることは禁忌です!」
司祭補「まあ、古い美術品なら例外ですけどねぇ」
財務大臣「美術品とはいえ、その『精霊の像』は約8千年前の異端者たちが作ったものでございます。そんな彫像をわざわざ買い付けるということは、つまり、港町銀行は異端信仰に染まっている……。そう考えることはできませんか?」
頭取「い、異端信仰だと! 何と恐ろしい!!」