「順調だよ」の裏で、一人で抱え込んでいたもの
真由美さんは最初、「どうしてもっと早く言わなかったの」と息子を責めました。拓海さんはしばらく黙った後、小さな声で答えました。
「働いて給料ももらってるのに、お金がないなんて言えなかった。実家に帰るたび、ちゃんとやってるふりをしてた」
入社したばかりのころは、同期との食事や職場の飲み会にも参加していました。周囲に合わせて衣服や仕事用品を買い、帰宅が遅い日は配達サービスを利用します。1回ごとの支出は数千円でも、月末にはカード請求が手取りを上回ることがありました。
それでも、利用可能額が残っているうちは買い物を止められませんでした。カードの支払い後に現金が足りなくなると、別の決済サービスを使う。その繰り返しで、家計を確認すること自体が怖くなったといいます。
真由美さんが絶句したのは、部屋の荒れ方だけではありませんでした。息子が食費を削るため、平日は一日一食で済ませることがあり、休日はほとんど布団から出ずに過ごしていたことです。
真由美さんは借金をすべて肩代わりすることも考えました。しかし、夫から「払うだけでは同じことを繰り返すかもしれない」と止められます。
家族はまず、拓海さんが利用していたカードや分割払いを一覧にし、残高、手数料、毎月の支払日を書き出しました。使っていない定額サービスを解約し、家賃の安い部屋への転居も検討。返済が難しくなる前に、自治体の消費生活相談窓口へ相談しました。
多重債務については、消費生活センターのほか、財務局や法テラス、弁護士会などにも相談窓口があります。消費者庁は、生活困窮の深刻化を防ぐためにも、早い段階で専門窓口へつなぐことの重要性を示しています。
拓海さんは会社にも事情を伝え、残業の少ない部署への異動を相談しました。休日には実家へ戻り、真由美さんと一緒に家計を確認しています。
「息子の『順調』は、心配をかけないための言葉だったんだと思います。でも、もっと詳細に聞いておけばよかった」
真由美さんはそう振り返ります。
拓海さんの生活は、一度に立て直ったわけではありません。それでも家計を見える化し、支払いを整理し、周囲へ相談できたことで、少しずつ日常を取り戻し始めています。
一人暮らしを始めた子どもは、親から見れば「もう大人」です。しかし、大人だからこそ弱音を隠し、「大丈夫」と笑ってしまうことがあります。問題が深刻化する前に家族や専門機関へ相談することが、立て直しへの第一歩になるのかもしれません。
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