香港ドル預金から人民元預金へのシフトが一時顕著に
6.「貨幣代替」「辺縁化」の懸念はあるのか
人民元相場が通貨バスケット制に移行した2005年以降、香港の一般居民から「香港ドルがまだ人民元よりやや強かった頃に人民元ペッグに移行しておけばよかった、その意味で、人民元ペッグへの移行の時期を失した(錯過)」という率直な声も聞かれ、人民元預金を積む香港居民が増加した。
2005年、香港ドル預金シェアが52%、人民元預金0.5%であったが、2014年末の香港ドル預金シェアは48%にまで低下する一方、人民元預金シェアは13%にまで上昇、明らかに香港ドル預金から人民元預金へのシフトが見られた(参考5)。
人民元の上昇期待が強かった2011〜14年頃は、銀行保証や信用状を担保に香港の銀行から香港ドルの融資を受け、それをメインランドに持ち込み人民元に換える「内保外貸」と呼ばれる手法で、金利差と為替差益を稼ぐ企業も増加した。このため、香港の金融関係者や学者の間で、香港ドルが人民元に駆逐されるという「貨幣代替」「香港ドルの辺縁化」の議論が沸騰した。2013年に香港の経済誌、東方日報が行った調査でも、大半の回答者が、人民元の国際化に伴い、香港ドルの辺縁化のおそれがあるとした(2013年10月15日付博訊)。
(参考5)
人民元相場の下落によって香港ドルに回帰する流れも
しかしこの間でも、人民元相場上昇に一服感のあった2012年には、預金が人民元にシフトする傾向にやや歯止めがかかっており、また2014年末以降、人民元預金シェアが低下、香港ドル預金シェアは上昇ないし高位安定している。人民元の対香港ドル相場が下落したことによる為替換算の影響もあるが(2014年末1人民元は1.25香港ドル、16年末1.11香港ドル)、人民元建ての金額自体も大きく減少している(同1兆元、5467億元)。香港ドル/人民元相場の動向によって、香港ドルへ回帰する傾向が直ちに見られることに注意する必要がある。以前盛んに見られた上述「内保外貸」も、2015年8月以降の人民元相場下落に伴い、人民元を香港ドルに換え、香港ドル融資の期限前償還をする巻き戻し現象が顕著になっている。
香港金融管理局(HKMA)も以前から、香港ドル預金は人民元預金増によって減少しているわけではないこと、同じように経済規模が小さい国際金融センターのロンドンやシンガポールを見ると、外国為替市場でのポンド、シンガポールドルの取引は小さいが、だからと言って、これら通貨の「辺縁化」が問題にされていることはないとして、香港居民の香港ドルに対する信認は維持されているとしている(上記、30周年に合わせた長官談話)。