重要性が高まる「おひとりさまの相続対策」
この事例で注目すべきポイントは、独身の隆さんが自分の財産について、誰になにを残し、誰に負担をかけないかを、元気なうちに設計していたことです。
内閣府の「令和8年版高齢社会白書」によれば、令和6(2024)年現在、65歳以上の人がいる世帯は2,760万4,000世帯で、全世帯の50.3%を占めています。また、65歳以上の一人暮らしも増加傾向にあり、令和2(2020)年時点で男性15.0%、女性22.1%、令和32(2050)年には男性26.1%、女性29.3%になると見込まれています。
このように「高齢の一人暮らし」が増えるなか、生前の相続対策が、残された家族の負担を大きく左右します。
配偶者も子もおらず、親も亡くなっている人の相続が発生した場合、原則「兄弟姉妹」が法定相続人になります。隆さんの場合、美和子さんと弟の昇さんが法定相続人にあたります。ただし、民法により、兄弟姉妹には「遺留分」がありません。そのため、「遺言書」があれば、財産の行き先は故人の意思が反映されやすくなります。
一方で、「死亡保険金」は、遺言で扱う財産とは性質が異なります。生命保険契約で受取人が指定されていれば、原則としてその受取人が保険金を受け取ることが可能です。
ただし、相続税の扱いには注意してください。相続人以外が死亡保険金を受け取る場合、生命保険金の非課税枠が使えないことがあります。今回のようなケースの場合、司法書士や税理士などの専門家に確認すると安心です。
遺品整理で家族が最もやっかいなこと
遺品整理の際に家族が最もやっかいに感じるのは、財産の多さではなく「財産があるのかないのかさえわからない状態」です。
どこの銀行に口座があるのか、証券会社はどこか、保険会社はどこか、借入れや保証人になっている契約はないか、家賃・公共料金・携帯電話・インターネット・サブスクリプションの支払いはどうなっているか……。これらがわからないと、遺族は悲しむ時間もないまま、書類探しと各所への連絡に追われることになります。
終活というと、立派なノートを買い、人生を振り返り、家族への感謝を長々と書くものだと思われがちですが、実務的には、下記のようなものをまとめた1枚を残すだけで十分です。
・銀行名
・証券会社名
・保険会社名
・不動産の有無
・借入れの有無
・毎月引き落とされている契約
・相談してほしい専門家
・処分してよいもの、残してほしいもの
これだけでも、残された家族の負担はかなり減ります。
また、独身の人や子どものいない人ほど、「遺言」の重要性は高くなります。自分の財産を誰に残したいのか、寄付したい場所はあるかなど、希望がある場合は必ず書面にしておきましょう。
受け取った兄からの“メッセージ”
「私たち、お兄ちゃんのことなにも見えてなかったね」
遺品整理を終え、美和子さんはつぶやきました。結婚歴や子どもの有無、持ち家の有無……。家族は、こうしたわかりやすい記号で無意識のうちに人を判断します。しかし、孤独で不憫な男だと思っていた兄は、実は誰よりも冷静に、自分の人生と家族の未来を見つめていたのです。
美和子さんと正則さんが受け取ったのは、兄の意思と財産だけではありません。「家族をわかったつもりになることの危うさ」と「生前対策の重要性」を胸に刻み、二人は部屋をあとにしました。
〈参考・出典〉
■内閣府「令和8年版高齢社会白書 第1章第1節3 家族と世帯」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2026/zenbun/pdf/1s1s_03.pdf
■国税庁『タックスアンサー No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金』
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー
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