皆が価値を知っている「良い会社」は、「良い株」ではない
ここで、極めて重要な原則を伝えよう。「良い会社」と「良い株」は、全く違うということだ。
例えば、誰もが知っている超有名企業。事業は素晴らしく、製品も一流だ。まさに「良い会社」だろう。しかし、その素晴らしさを市場の誰もが知っているため、株価がすでにその価値を織り込み済み、あるいはそれ以上に高騰しているなら、それは投資対象として「良い株」ではない。
逆に、事業は地味で、世間からの注目度は低い。しかし、着実に利益を上げ、財務も健全。なのに、何らかの理由で株価が不当に安く放置されている。これこそが、あなたが広大な海の中から探し出すべき「沈んだお宝(良い株)」なのだ。
日本市場では「良い株」を見極めやすい理由
そして、この「沈んだお宝」が、今の日本市場には、驚くほどたくさん眠っている。長年、「物言わぬ株主」が支配してきた日本市場は、今、構造的な転換点を迎えている。数十年にわたるコーポレートガバナンス改革の積み重ね。そして、2023年3月、東京証券取引所が打ち出した「PBR改善要請」という名の黒船。
PBR(株価純資産倍率)とは、企業の市場評価が、その解散価値に対してどの程度の水準にあるかを示す指標だ。そして、PBRが1倍を下回るということは、理論上、「その会社は、事業を続けるより、今すぐ解散して資産を株主に分配した方がマシだ」と、市場から宣告されているに等しい。東証は、このPBR1倍割れという「不名誉な烙印」を押された企業に対し、「なぜ自社の価値が低いのかを分析し、改善策を提示せよ」と、厳しく迫ったのだ。
このトップダウンの圧力が、眠れる日本企業を叩き起こし、バリュー投資家にとって、これまでにない興味深い投資環境を生み出している。もはや、投資家が自ら変革を強いるための面倒なプロセスを経る必要はない。東証という市場の番人が、すべての企業に対して資本効率の改善を公に要求しているからである。
これにより、我々個人投資家の主要なタスクは、この強力な外部圧力に最も的確に対応できる、あるいは対応せざるを得ない企業を見極めることにシフトした。

