アクティブな事業展開だけに留まらない「会社の役割」
会社設立と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは「何かしら新しい商品やサービスを世に出し、売上を大きく伸ばしていく」というイメージではないでしょうか。もちろん、それもあります。しかし、現代における法人の役割は、そうしたアクティブな事業展開だけには留まりません。
実は、自ら汗を流して商売をする予定がない一般の会社員であっても、会社を持つことで恩恵を受けられるケースがあります。それが「資産管理目的」としての会社設立です。
人生100年時代、本業以外の収入源の確保や、将来の資産形成、さらには家族への資産承継を考えるうえで、なぜ「自分だけの会社」を持つことが有利に働くのか。司法書士の視点から、ビジネス以外の側面における法人の賢い活用術を解説します。
不動産投資をやるなら「最初から法人」が鉄則な理由
会社員を続けながら取り組む人が非常に多い資産形成の一つに、不動産投資(アパート経営やマンション一室の所有など)があります。実は、この不動産投資の領域こそ、最も「会社」という箱が活躍する舞台です。
会社員は毎月の安定した給与収入があるため、銀行からの社会的信用が高く、不動産投資のための融資を受けやすいというアドバンテージを持っています。このとき、多くの人は深く考えずに「個人名義」で物件を購入してしまいがちですが、ここに大きな見落としがあります。
将来的に投資規模が大きくなったり、税金対策を考えたりした段階で「やっぱり個人名義から、自分の法人名義に物件を移そう」と考え直しても、それは容易ではありません。融資の組み直しが必要になったり、不動産を譲渡するための多額の税金や登録免許税が再度発生したりします。場合によっては、銀行の許可が下りずに名義を変更できないという最悪のケースも起こり得ます。
だからこそ、現時点での投資規模が小さくても、あるいはまだ具体的な物件が決まっていなくても、「将来を見据えて、最初から不動産を買い受けるための『資産管理用の箱(法人)』を作っておく」という選択をする会社員が非常に多いのです。売上規模に関わらず、資産を守り、育てるための器として会社が機能します。
「1円起業」の正しい捉え方と適切な規模感
ここで、「法律上は資本金1円でも会社が作れるのだから、まずは1円で資産管理会社を作ればいいのか」という疑問が湧くかもしれません。これに対する回答は「目的による」です。
もし、完全に自分や家族だけのプライベートな資産管理用の箱として使う(他社と取引をしない)のであれば、資本金が1円でも100円でも、法律上も実務上もまったく問題はありません。
しかし、その会社を使って将来的に外部の業者と大規模な取引をしたり、あるいは不動産投資のための融資を会社名義で本格的に受けようとしたりする場合、資本金1円という数字はマイナスに働く可能性があります。金融機関や取引先から「この会社は本当に大丈夫だろうか」と、実体や信用を疑われる原因になりかねないからです。
また、当然ですが「資本金1円で会社が作れる」といっても、設立にかかる登録免許税などの実費は別途必要になるため、本当に1円だけで会社が作れるわけではありません。業種や目的に応じた「適切な資本金の感覚」を見極めることが、失敗しない重要なポイントです。
相続・資産承継における法人の絶大な流動性
さらに、法人の持つ大きなメリットとして「資産の承継(相続対策)のしやすさ」が挙げられます。
個人名義で土地や建物を複数所有している場合、いざ相続が発生すると、どの不動産を誰にどう分けるかで親族間でもめたり、不動産の登記を一つずつ変更するために膨大な手間とコストがかかったりします。
しかし、それらの資産をすべて一つの「法人」に集約しておけば、相続の際に対象となるのは不動産そのものではなく、その会社の「株式」になります。株式であれば、「長男に50%、長女に50%」というように、極めてきれいに、かつ流動性を高くして分けることが可能です。また、生前贈与の手続きも個人の不動産移転に比べて格段にスムーズに行うことができます。
使わなければ「休眠」させておけばいい
「せっかく会社を作っても、活用できなかったらどうしよう」と不安に思う必要はありません。設立にかかる費用は数十万円程度のものであり、「ちょっとした勉強代」と割り切れる規模の話です。また、不要になれば会社を畳むことも比較的簡単です。
しかし、実際の現場では、使わなくなったからといってすぐに会社を解散させる人はそれほど多くありません。多くの人は「休眠」という形で法人の籍を残しています。「社歴(会社が存在している期間)が長い」ということ自体が将来的な信用に繋がることもありますし、数年後に「また新しいアイデアを試したくなった」という時に、事業目的を変更してその箱を再利用することができるからです。
会社を一つ所有することは、人生の中に「いつでも使える自由な箱」をキープしておくことと同じです。攻めのビジネスだけでなく、守りの資産管理としても、法人はあなたのライフプランを強力に支えてくれるでしょう。
※ 会社によっては、副業禁止規定の一環として従業員の会社設立に制限を設けているケースがあります。会社員の方が会社設立を行う場合は、勤務先の就業既定の確認をお勧めします。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士
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