下女「で、では……なぜ現金が一致しないのでしょう。アタシは横領などしていませんが……」
黒エルフ「本当に?」
下女「本当です!」
黒エルフ「じゃ、一致しなかった金額を教えて。現金は何G足りなかったの?」
女騎士「私が確認したときは、現金の残高が帳簿よりも1千865G少なかったのだ」
下女「……げ、『現金過不足』という勘定科目を使った仕訳を入れるようにと教わりました……」
黒エルフ「正解よ。不一致の原因が分かるまでの一時的な勘定科目ね」
下女「そ、そのあと……女騎士さんに調べてもらったら、筆記用具の購入代金913Gが帳簿に記入されていないと分かりました……」
女騎士「そのときの仕訳がこれだ」
黒エルフ「これも正解。正しい記入方法になっているわ」
黒エルフ「1千865Gのうち913Gの原因が分かった。残りは952Gね」
女騎士「領収書も帳簿もよく調べたのだが……」
下女「952Gの取引は見つかりませんでした」
黒エルフ「じゃ、476Gならどう?」
女騎士「なんだ、その金額は?」
黒エルフ「952Gの半分の金額よ」
下女「わ、分かりました。帳簿から探してみます!」
女騎士「952÷2で476Gか。そんな金額を探して何になる?」
黒エルフ「つべこべ言わずに探しなさいよ」
女騎士「しかし……」
下女「あっ、ありました…!」
女騎士「!」
黒エルフ「ふふっ、大当たりね。どんな取引の仕訳かしら?」
下女「こ、これです。……と、取引先から受け取った小切手を……銀行に持ち込んで、預け入れたときの仕訳です……」
黒エルフ「この仕訳を見て、何かおかしいと思わない?」
女騎士「あ……」
黒エルフ「小切手の取引に『現金』の勘定科目を使うのは正解よ。……だけど、小切手を銀行に預け入れるということは、手元の現金を減らして、代わりに銀行預金の残高を増やすという仕訳になるはずよね」
女騎士「だが、この仕訳では逆になっている?」
黒エルフ「そういうこと。借方と貸方を逆向きに記入してしまっているの」
下女「うっかり、しました……」
黒エルフ「借方と貸方をあべこべにした仕訳を記入すると、2倍の金額の差異が出るわ」
女騎士「今回なら、現金を476G減らす仕訳を入れるはずだった」
黒エルフ「だけど間違えて476G増やす仕訳を入れてしまった。だから手元の現金よりも、帳簿上の現金が476×2の952G増えてしまった」
女騎士「つまり、手元の現金が952G足りないのではなくて……」
下女「ち、帳簿のほうが952G多かった……ということですね!」
黒エルフ「そういうこと。よかったわね、横領の疑いは晴れたわ」
下女「あ、ありがとうございます! ご主人様にも報告します!」
女騎士「帳簿を間違ったままにはしておけないな」
下女「ど、どうすれば……?」
女騎士「安心しろ、ここに修正液がある」サッ
下女「さすがは女騎士さま! 準備がいいです!」
黒エルフ「そんな堂々と帳簿を改ざんすんな」
女騎士「私はただ書き直そうと……」
黒エルフ「それを改ざんと呼ぶのよ! 一度記入した仕訳は、原則として書き直してはダメよ」
女騎士「それでは間違えた場合に困るだろう」
黒エルフ「間違わなければいいのよ」
女騎士「人間とは間違える生き物なのだ!」
黒エルフ「ハァ……。しかたないわね、ごく基本的な修正方法だけ教えましょう」
下女「お、お願いします」
黒エルフ「間違った仕訳を見つけたら、貸借を逆にした仕訳を入れるの。こうすることで、間違った仕訳を相殺して、無かったことにできるわ」
下女「ふむふむ」
黒エルフ「それから正しい仕訳を記入し直す。こうすれば、帳簿の数字が現実の残高と一致するはずよ」
下女「ほ、本当です! 帳簿の金額が、ぴったり一致しました……!」
黒エルフ「これで一件落着ね」
下女「あ、ありがとうございます! どう感謝すればいいか……」
女騎士「わはは! 私たちに任せろなのだ!」ドヤァ
黒エルフ「あんたがドヤるな」
???「あ~ん、もぉ~……こんな夜中に何の騒ぎぃ?」
下女「ご主人様!」
理髪師「目が覚めちゃったじゃなぁ~い」ヒラヒラ
女騎士(すごい寝間着だ)
黒エルフ(すごい寝間着ね)
理髪師「あらぁ? そちらのお2人は……」
下女「……ご主人様、じ、じつはですね……というわけだったのです……」
理髪師「あら、本当! 帳簿のズレがきちんと解消されているわぁ~」
下女「はい! ……か、感激しました!」
女騎士「これからは、帳簿を間違えないように気をつけるといいだろう」
黒エルフ「正しい数字は、正しい答えを導いてくれる。正しい帳簿さえあれば、あたしは世界だって救ってみせるわ」