「自分の生活を削ってまで」…母が隠していた小さな支援
直人さんは、母の家を改めて見回しました。
冷蔵庫には安い総菜。押し入れには、何年も着ていたと思われる服。エアコンは古く、冬は電気毛布でしのいでいた形跡もありました。
「母は、自分のためにはほとんどお金を使っていなかったんです」
その一方で、毎月1万円の送金は続いていました。
直人さんは、美咲さんの母親にも連絡を取りました。すると、相手は泣きながら言いました。
「節子さんには、本当に助けられました。でも、誰にも言わないでほしいと言われていたんです」
節子さんは、見返りを求めていたわけではありませんでした。家族に褒められたかったわけでもありません。ただ、苦しい時期に少しでも力になりたかったのです。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人が増加しており、令和2年には65歳以上人口に占める一人暮らしの割合が男性15.0%、女性22.1%になったとされています。高齢者自身も不安を抱えながら暮らすなかで、家族や親族とのつながり方は一人ひとり異なります。
直人さんは、母の行動を美談だけで受け止めることはできなかったといいます。
「立派だと思う気持ちもあります。でも、自分の生活をそこまで削らなくてもよかったのに、という気持ちもありました」
もし母が早く話してくれていれば、別の形で支援できたかもしれません。直人さん自身が母の生活費をもう少し負担することもできたかもしれません。
ただ、母にとっては「誰にも言わずに続けること」そのものが、静かな誇りだったのかもしれません。
遺品整理のあと、直人さんは美咲さんに会いました。すでに社会人になっていた美咲さんは、節子さんからの送金で制服代や教材費を支払えた時期があったと話しました。
「おばあちゃんみたいな人でした」
その言葉を聞いて、直人さんはようやく、封筒の意味を少し理解できた気がしたといいます。
仏壇の奥にしまわれたメモと控えが示していたのは、母が最後まで誰かを気にかけて生きていたという事実でした。
「母は、思っていたよりずっと強い人だったのかもしれません」
親のお金の使い道は、子どもが想像するものとは限りません。そこには、家族も知らなかった人間関係や、本人だけが大切にしていた思いが残されていることがあります。仏壇の奥の封筒は、節子さんが誰にも誇らずに続けた、小さな支援の記録だったのです。
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