「楽しかった。でも…」今も悔やむ“たった一つのこと”
帰国後しばらくして、澄子さんは急に気持ちが沈むようになりました。理由は、自分でもすぐには分からなかったといいます。
「夢が終わった感じがしたんです」
毎日刺激に満ちていた船上生活から一転、静かな一人暮らしへ戻る。朝起きても海はなく、寄港地へ向かう高揚感もありません。
最初は、旅行ロスのようなものだと思っていました。しかし、時間が経つにつれ、別の思いが強くなっていきます。
「夫にも見せてあげたかった」
それが、澄子さんが今も唯一悔やんでいることでした。
夫は仕事一筋の人でした。長期休暇を取ることは少なく、「定年後にゆっくり旅行しよう」と話していた矢先、病気で亡くなったといいます。
「一人で行って、すごく楽しかった。でも、本当は二人で見たかった景色だったんですよね」
帰国後、写真を整理しているとき、澄子さんは何度も手が止まったといいます。
「もっと一緒に旅行しておけばよかった」
その後、澄子さんは大きく生活を変えました。
以前のように、「老後資金は減らさないように」と考えるだけではなく、小さな外出や人付き合いにも積極的になったのです。近所の友人と食事へ行き、美術館へ足を運び、地域のサークルにも参加するようになりました。
澄子さんは現在も、豪華客船のアルバムを時々開くそうです。そこには、美しい景色と笑顔の自分が写っています。
「本当に幸せでした」
そう話したあと、澄子さんは少しだけ寂しそうに笑いました。
「でも、“いつか一緒に”って後回しにしていた時間は、戻ってこなかったんですよね」
お金以上に取り戻せないものがあることを、澄子さんは旅のあとで痛感しました。それは、元気なうちに、大切な人と同じ景色を見る時間でした。
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