「夫婦のお金じゃなかったの?」…通帳に残された厳しい現実
異変がはっきりしたのは、退職から1年ほど経ったころでした。
美奈子さんが通帳を確認すると、残高は想定以上に減っていました。車の購入費、趣味の支出、旅行代、外食費。まとまった出金が何度も記録され、退職金は大きく目減りしていたのです。
「これ、どうするつもりなの?」
美奈子さんが問いかけると、浩司さんは不機嫌そうに答えました。
「また節約すればいいだろ」
その言葉に、美奈子さんは初めて強い怒りを覚えました。
「節約するのは、いつも私なの?」
現役時代、浩司さんは仕事中心の生活でした。家計管理、子育て、親の介護、日々のやりくりは、美奈子さんが担ってきました。夫が外で働いてきたことは事実です。しかし、その生活を支えてきたのは自分でもある。美奈子さんには、退職金を「夫だけの成果」と言われたように感じられました。
離婚時の財産分与では、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産は、名義にかかわらず分与の対象になり得ます。退職金についても、婚姻期間中の労働の対価とみられる部分は、夫婦共有の財産として考慮されることがあります。もっとも、離婚しない限り日常の家計で直ちに半分に分けるという話ではなく、夫婦で合意して管理することが重要です。
美奈子さんは、夫婦の老後資金表を作りました。年金受給までの生活費、固定資産税、医療費、車の維持費、将来の介護費。数字を並べると、浩司さんも黙り込みました。
「こんなに減っていたのか」
しかし、美奈子さんの不信感は簡単には消えませんでした。
「お金が減ったこともつらいです。でも、それ以上に、“夫婦で考える”という感覚がなかったことがつらかったんです」
現在、夫婦は支出を見直し、車の売却も含めて話し合っています。浩司さんも、趣味に使う金額を月ごとに決めることを受け入れました。
それでも、美奈子さんはこう話します。
「退職金が入ったとき、私は安心したんです。でも夫は、自由になったと思っていた。その違いが、こんなに大きいとは思いませんでした」
お金の問題に見えても、本当にすれ違っていたのは、「これからの人生をどう過ごしたいか」だったのかもしれません。
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