どこまで続くのか…夫婦が決めた苦渋の線引き
夫婦の間で本格的に危機感が高まったのは、自宅の外壁修繕の見積もりを取ったときでした。
築30年を超えた家は、屋根や外壁、水回りの補修が必要になっていました。見積額は数百万円。これまで息子たちへの援助を続けてきたことで、将来の支出に対する不安が一気に現実味を帯びました。
「こんなことになるなら、もっと早く線を引くべきだった」
佳代子さんはそう漏らしました。
もちろん、息子たちを見放したいわけではありません。長男も次男も、それぞれ家庭を持ち、必死に暮らしていることは分かっています。
ただ、親の貯金を“まだあるお金”として頼られ続けることに、夫婦は限界を感じていました。
民法877条1項は、直系血族及び兄弟姉妹間に扶養義務があると定めています。ただし、成人して独立した子に対する親の扶養義務は「生活扶助義務」にとどまります。これは、親が自分にふさわしい生活を維持した上で、なお余力がある範囲で子の最低限の生活を助けるという限定的なものです。
したがって、親が老後資金、住宅修繕、医療・介護リスクなどを犠牲にしてまで、子の住宅ローンや教育費などを無制限に負担する法的義務はありません。援助の必要性や程度は、個別の生活状況を踏まえて考える必要があります。
昭夫さんは、息子たちがそろって帰省した日に話を切り出しました。
「これからは、簡単にお金を出すことはできない」
長男は驚いた顔をしました。
「そんなに困ってるの?」
昭夫さんは通帳や家計簿を見せました。毎月の収支、医療費の見込み、住宅修繕費、今後の介護費。数字で示されると、息子たちも黙り込みました。
「母さんたちは大丈夫なんだとばかり…」
その一言に、佳代子さんは胸が痛んだといいます。
「大丈夫なように見せていただけなのかもしれません」
その後、夫婦はルールを決めました。帰省時の外食や滞在費はできる範囲に抑えること。現金援助は原則しないこと。どうしても必要な場合は、理由と返済予定を明確にすること。
息子たちも少しずつ理解を示すようになりました。
「親だから何でもしてくれると思っていたのかもしれない」
長男は後日、そう話したといいます。
家族への支援は、愛情の表れです。しかし、支える側の老後が崩れてしまえば、結局は家族全体が苦しくなります。夫婦にとって、援助を断ることは冷たい選択ではありませんでした。
「これからも帰ってきてほしい。でも、お金のために帰ってくる関係にはしたくない」
佳代子さんのその言葉には、親としての寂しさと、老後を守るための静かな決意がにじんでいました。
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