「父は質素に暮らしているはず」…通帳に残された不自然な出金
勝男さん(仮名・84歳)は、月約7万円の国民年金で一人暮らしをしていました。持ち家のため家賃負担はなく、生活は質素そのもの。近所のスーパーで値引き品を買い、服も何年も同じものを着ていました。
次男の裕二さん(仮名・50歳)は、月に一度ほど実家を訪ねていました。
「父は昔から倹約家でした。年金は少ないけれど、預金も残っているはずだから、何とかやっていると思っていました」
ところが、勝男さんが軽い脳梗塞で入院したことをきっかけに、裕二さんは実家の通帳を確認することになります。入院費や今後の介護サービス費を把握するためでした。
通帳を開いた瞬間、思わず手が止まりました。
数年前まで1,400万円近くあった残高が、ほとんど残っていなかったのです。記録を追うと、数十万円単位の出金が何度も続き、合計で1,200万円ほどが引き出されていました。
「最初は、詐欺にでも遭ったのかと思いました」
裕二さんは父に問いただしました。
「このお金、何に使ったの?」
勝男さんはしばらく黙っていましたが、やがて小さな声で答えました。
「兄さんに渡した」
裕二さんは耳を疑いました。
勝男さんの長男、つまり裕二さんの兄は、数年前から仕事が安定せず、実家に頻繁に顔を出していたといいます。生活費が足りない、家賃が払えない、病院代が必要。そんな理由で、少しずつ父に金を無心していたのです。
「父は“困っているなら助けないと”と思っていたようです。でも、まさかここまでとは…」
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月約12.4万円、消費支出は月約14.9万円で、平均では毎月赤字となっています。勝男さんの年金月7万円はこの水準を大きく下回り、本来であれば預金を慎重に取り崩す必要がある状況でした。
「父自身の生活費にも足りない年金なのに、その預金を兄に渡していた。信じられませんでした」
