(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が一人暮らしをしている場合、子どもが家計の実態を正確に把握していないことは少なくありません。年金収入や預金残高、日々の支出は、本人が元気なうちは見えにくいものです。しかし、通院や入院、介護の必要性をきっかけに通帳を確認したとき、家族が思いもよらない異変に気づくことがあります。

親子間の援助が招いた老後資金の消失

裕二さんがさらに衝撃を受けたのは、父が自分の生活を切り詰めてまで長男を援助していたことでした。

 

冷蔵庫には安い総菜と古い調味料。浴室の給湯器は不調のまま。冬も暖房を控えていた形跡がありました。

 

「お金がないなら言ってくれればよかったのに」

 

裕二さんがそう言うと、勝男さんは首を横に振りました。

 

「お前には迷惑をかけたくなかった」

 

長男を助ける一方で、次男には心配をかけまいとしていたのです。

 

親子間の金銭援助は、家族だからこそ線引きが難しいものです。民法877条では、直系血族や兄弟姉妹には扶養義務があるとされています。ただし、それは自分の生活を犠牲にしてまで無制限に支えるという意味ではありません。現実には、援助する側の生活や資産状況を踏まえた範囲で考える必要があります。

 

裕二さんは、兄にも事情を確認しました。

 

兄は最初、「借りただけだ」と言いました。しかし、返済の見込みはほとんどありませんでした。仕事は不安定で、借用書もなく、父自身も「返してもらうつもりはなかった」と話したのです。

 

「父の老後資金が、兄の生活費に消えていたんです」

 

勝男さんの退院後、介護サービスの利用や住宅改修が必要になりました。しかし、預金は大きく減っており、選択肢は限られていました。

 

裕二さんは地域包括支援センターに相談し、介護保険サービスや生活支援の制度を確認しました。今後は父の通帳管理を一緒に行い、兄への援助も止めることにしました。

 

「本当は、もっと早く気づくべきでした」

 

しかし裕二さんは、父を責めきれないとも話します。

 

「父にとっては、兄も大事な子どもです。見捨てることができなかったんだと思います」

 

高齢の親の資産は、親本人の生活を守るためのものです。けれど、家族間ではその境界線が曖昧になりがちです。「困っている子どもを助けたい」という親心が、結果として本人の老後を危うくすることもあります。

 

 

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