想定外の返信
Aさん夫婦は、高度経済成長期の子ども時代から、経済・社会が大きく変わり、スマートフォンの普及によりSNSでいつでもどこでも連絡が取りやすくなりました。Aさん親子もSNSでつながったことで、より娘に干渉しやすくなったのかもしれません。一方で、娘の限界が近いことに、夫婦はまったく気がついていませんでした。
娘に同居の話をしてから1週間が経過。いつもならすぐに返信があるところですが、なかなか返信が来ないのです。何度もメッセージを送りますが、既読にすらなりません。業を煮やしたAさん夫婦は、次の娘婿の休みに家まで行って様子を伺おうと考えていたところ、返信がありました。
「もう、私たちのことはいないものと思ってください」
なにを言っているのかわからず娘の家へ駆けつけると、なんとそこはもぬけの殻になっていました。なにもいわずに引っ越しをしたようです。驚いたAさんは、娘婿の勤務先へと向かいます。受付で呼び出しを求めたところ、「私的な要件での呼び出しは認めらておりませんのでお引き取りください」と告げられました。渋々その場を退いたAさん。帰宅すると、婿から電話がありました。婿はAさんが会社まで行ったことを受付係から話を聞いた様子です。
「一体どういうことだ! なぜ黙って引っ越したんだ!」
詰め寄るAさんに対し、婿は決然とした口調でこう告げました。
「妻は、お義父さんたちの過干渉に疲れ果てていました。これ以上、私たちの生活に踏み込まないでください」
それが、苦労して得られた唯一の、そしてあまりに非情な回答でした。
納得がいかないAさんは、何度も娘にメッセージを送りますが、どうやらブロックされているようです。電話もつながらなく、Aさんは妻と二人で夕食をとりながら、「なにがいけなかったのか」「どこで間違えたのか」と自問自答を繰り返していますが、その答えはいまだに見つかりません。
「家族の在り方」のアップデートを
Aさん夫婦は、自分の親の教えから「当然、自身の高齢期も家族が、子どもが助けてくれる」と思ってきました。しかし時代とともに、高齢期の暮らし方は劇的に変化しています。「いつまでも家族は一緒に」という考え方は、現代の核家族化や少子化、そして個人の自由を重んじる価値観のなかでは、もはや「リスク」になり得ます。
子どもには子どもの人生があり、家庭があります。親が考える「よかれ」が、子どもの世代には「耐え難い支配」として受け取られてしまうことは、決して少なくありません。
夫婦だけの老後が当たり前になりつつあるいま、必要なのは「家族という名の依存」ではなく、適切な距離感を持った「自律的な老後設計」です。相手を一個人として尊重し、思いやる気持ちを忘れないこと。それこそが、最期まで家族との絆を保つための、唯一にして最大の資産なのかもしれません。
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表
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