家事が得意な母の、唯一「苦手なこと」
田中芳子さん(仮名/76歳)は3年前に夫を亡くして以降、一人暮らしを続けています。年金収入は夫の遺族年金を合わせれば月15万円ほどあり、そのほか夫の死亡保険金を含めた預貯金が約1,000万円あるため、生活に不自由はありません。
家事全般をそつなくこなす芳子さんですが、ただ一つだけ苦手なことがあります。それが「お金の管理」です。家計管理は長年夫の役割で、年金支給日になると夫がお金を引き出し、それを1ヵ月ごとの生活費とお小遣いにわけ「今月もよろしく」と手渡してくれるのが習慣になっていました。
夫が亡くなったあと、芳子さんも家計管理に挑戦しようとしましたが、なにから手をつければいいのかまったくわかりません。相談できる相手もおらず、しばらくのあいだは「必要なときにATMで引き出すだけ」という生活でした。
そんな日々を続けて1年が過ぎたころ、長男の雅之さん(仮名/52歳)が芳子さんのもとを訪ねてきました。
「お金の管理、お母さん一人で大変じゃない? 通帳とか印鑑、俺が預かるよ」
父親の葬儀も手際よく仕切ってくれた長男です。心配してくれてありがたいと思った芳子さんは、3冊の通帳と届出印とキャッシュカードをすべて息子に預けました。それからは、毎月の生活費は、雅之さんが直接届けてくれることに……。
1年後に気づいた“異変”…長男が口にした「まさかのひと言」
ところが、雅之さんに管理を任せて2年目のこと。芳子さんは、渡される生活費が減っていることに気がつきました。理由を尋ねると、「今月は支払いが多かったから」といいます。芳子さんは不思議に思いましたが、通帳は雅之さんの手元にあるため、確認する手段がありません。
いったんは息子の言葉を受け入れた芳子さんでしたが、その後、以前から痛みのあった膝の状態が悪化し、医師から手術を勧められました。入院費が必要になった芳子さんは、その場で雅之さんに電話をかけます。
「もしもし? 膝の手術をすることになったの。入院費がいるから、引き出しておいてもらえる?」
しばらくの沈黙のあと、返ってきたのは思いもよらない言葉でした。
「母さんのお金、もうほとんどないよ」


