政府の言う「スピード感」とは何か?──税制改正の現実と国民感覚の“ズレ”

政府の言う「スピード感」とは何か?──税制改正の現実と国民感覚の“ズレ”
(※写真はイメージです/PIXTA)

「スピード感をもって対応する」──政府が繰り返すこの言葉に、違和感を覚える人も少なくないかもしれません。急激な物価高騰が続くなか、食料品減税や給付付き税額控除をめぐる議論が進んでいますが、それらの政策が「いつ実現するのか」は、依然として不透明なままです。本稿では、そんな国民の期待と、実際の政治のプロセスとの間に横たわる、“時間のズレ”を読み解きます。

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物価高のなかで高まる「遅い」という不満

現在、税制を巡っては、食料品に対する消費税の減税と給付付き税額控除の導入が大きな焦点となっています。背景には、イラン情勢に端を発した原油供給不安による輸入減と、それに伴う物価上昇があります。

 

こうした状況のなかで、政府の対応に対して「遅い」という不満や、ある種のいら立ちを感じる国民も増えているようです。

「すぐ結果が出る社会」と政治の時間軸

インターネット社会では、ボタン一つで答えが得られる環境が当たり前になっています。そのため、意思決定に時間を要する政治のプロセスは、どうしても対照的に映ります。

 

しかし政治の世界では、さまざまな利害が対立し、それを調整する必要があります。こうした「人間的な調整」に時間がかかることが、スピードを制約する要因となっています。

消費税減税には法改正が不可欠

たとえば、消費税を引き下げるためには、法律である消費税法の改正が必要です。単なる政策判断だけで、明日から実施できるものではありません。

 

税制改正は通常、以下のようなプロセスを経ます。

 

・各省庁や経済団体などからの要望提出

・政府税制調査会による答申

・与党税制調査会による「税制改正大綱」の策定(例年12月)

・閣議決定を経て法案提出

・国会審議・成立

・原則として翌年4月1日施行

 

さらに、法律成立後には、実務運用のための通達などが整備され、公表されます。法律は財務省主税局、通達は国税庁が主に担当しています。

「スピード感」の実態は“半年〜1年以上”

政府は、食料消費税減税や給付付き税額控除について、6月頃に「中間とりまとめ」を行うとしています。

 

ただし、その後も詳細な制度設計や調整が続き、最終的には法案として国会の承認を得る必要があります。仮に順調に進んだとしても、実施までには数か月から1年以上を要する可能性があります。

 

立法に関わる側から見れば、従来よりも迅速な対応と評価されるかもしれませんが、生活に直結する物価高に直面している人々にとっては、「まだ遅い」と感じられるのも無理はありません。

問われる「説明」と時間感覚の共有

国会では「丁寧な説明」という表現が繰り返し使われます。しかし今求められているのは、単なる説明ではなく、「どの程度の時間がかかるのか」という見通しの共有ではないでしょうか。

 

国民が期待するスピード感と、政治が実際に動けるスピードとの間には、明確なギャップがあります。この時間感覚のミスマッチをどのように埋めるのか――政府には、その説明責任がより強く求められているといえそうです。

 

 

矢内一好

国際課税研究所

首席研究員

 

 

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