「手伝う」ではなく「一緒に暮らす」ために
数週間が過ぎたころ、美智子さんの不満は限界に近づいていました。きっかけは、浩一さんの何気ない一言でした。
「昼、簡単なものでいいよ」
その言葉を聞いた瞬間、美智子さんは黙ってしまったといいます。
「簡単なものでも、考えて作って片づけるのは私なんです。夫にはその感覚がないんだと思いました」
その夜、美智子さんは改めて話し合いを切り出しました。
「私は、あなたのお世話係になるために老後を迎えたわけじゃない」
浩一さんは、その言葉にかなり驚いたそうです。
「そこまで思っていたとは分かりませんでした。自分では迷惑をかけているつもりがなかったので」
話し合いの中で、夫婦は家事を具体的に分けることにしました。浩一さんは朝食の準備、ゴミ出し、風呂掃除、週に数回の買い物を担当。昼食はそれぞれ自分で用意する日を作り、夕食も週末は浩一さんが作ることにしました。
最初は失敗も多かったといいます。買い物では必要なものを買い忘れ、料理も時間がかかりました。それでも、美智子さんは「完璧にやってほしいわけではなかった」と話します。
「自分の生活を自分で回す意識を持ってほしかったんです」
浩一さんの家事は急に上手になったわけではありませんが、美智子さんは「あの日、言ってよかった」と振り返ります。
「黙っていたら、たぶん私はずっと不満をためていたと思います」
夫婦の関係は、長く続いた形のまま自然に老後へ移るわけではありません。浩一さん夫婦にとって退職日は、仕事の終わりであると同時に、新しい暮らし方を考え始める日でもあったのです。
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