交通費、住まいの修繕費…夫婦を苦しめた“隠れコスト”
「ガソリン代だけで、月に3万円近くかかっていたんです」
そう伺ったとき、正直筆者も驚きました。都内に住んでいたころ、夫婦の交通費はほぼゼロ。駅までは徒歩5分、スーパーもドラッグストアも病院も、生活圏のなかにすべて収まっていたそうです。
ところが佐藤さんが住む町では、最寄りのスーパーまで車で片道20分、総合病院までは片道40分。夫の通院と週2回の買い物をこなすだけで、軽自動車1台の維持費は年間約45万円に達しました。これは、ガソリン代や車検、任意保険、自動車税、タイヤ交換など、すべてを含めた金額です。
「タクシーなんて使ったら片道8,000円ですからね。年金暮らしでは、とても現実的ではありませんでしたよ」
加えて、建物の修繕費も想定を大きく上回りました。
「屋根の葺き替えに180万円、シロアリ防除に30万円。水回りの修繕や畳の張り替えも合わせると、建物関係だけで5年で280万円は使ったと思います。築50年の古民家は気密性が低くて、冬場の灯油代も月3万円近くかかりました」
マンションに住んでいたころの修繕積立金は月1万5,000円ほど。5年で約90万円の計算です。それと比較すれば、古民家の修繕コストは実に3倍以上という計算になります。
こうした状況は、佐藤夫婦に限った話ではありません。総務省『家計調査』(2023年)によれば、2以上世帯の交通費は地方都市・町村部のほうが大都市圏より高くなる傾向があるとされ、自家用車を前提とする暮らしでは、むしろ支出が膨らむケースも少なくないのです。
要領わからず、「ご近所付き合い」で年20万円
そしてもうひとつ、移住するまでわからない“隠れコスト”がありました。地域コミュニティとのお付き合いです。
「町内会費や神社の奉納金、自治会の寄付や差し入れ。こうしたお付き合いで、年間20万円近くが出ていきましたね」
妻はそういったあと、少し間を開けて、言葉を選ぶようにして続けました。
「それよりもしんどかったのは、精神的なほうです。町で20年以上暮らしていらっしゃる先輩移住者の方に『20年住んでも、結局よそ者だよ』といわれたとき、もうここに居続ける気力がなくなって。草刈りの当番を一度断っただけで、翌日から挨拶されなくなることもありました」
「これまでは、都会の“無関心”が、ある意味救いだった面もあるかもしれません」と、妻は、伏し目がちにそういいました。

